さて、そんな前向きな山口さんだが、入社当初はやはり戸惑うこともあった。

山口「エミレーツ航空は世界100カ国以上から人員を採用しているのですが、中には英語の発音が全然聞き取れないクルーがいて困ったことがありました。私はカナダで、言わば北米式の英語を勉強しているわけですが、出身地特有のアクセントがある発音で話されて分からなかったのです。最初は遠慮して聞き返さなかったのですが、それでは乗務中のコミュニケーションが取れませんから、今では聞き返せるようになりました。向こうも、日本人は日常的に英語を使わないことを知り、それでも頑張って話していることに尊敬の念を持ってくれるようになりました」

2008年7月にリニューアルしたエミレーツ航空のユニフォーム。エミレーツ航空のブランドカラーの赤い帽子をドバイの砂漠の色を象徴するベージュで縁取っている

違う民族がお互いに歩み寄ることでスムーズな関係ができるという、まさに国際化を身をもって体験しているわけである。

山口「カルチャー・ショックもありました。研修では先生から意見を求められることが多いのですが、他の国のCA達はとにかく積極的で、先生に指名される前に自分の意見を話し始める。それに比べて、私たち日本人CAは、まず手を挙げて指名されたら…と順序立ててからでないと発言できなくて。  そんな調子ですから授業中に質問できないことがあり、仕方なく後で先生に聞きに行ったら、質問はみんなの前でしないとフェアじゃないでしょ、とたしなめられたり。  今でもヨーロッパのCAほど積極的にはなれませんが、自分の意見を人前で言う勇気を持つようにしています。一緒に働く他国のCAは、私達日本人の性質を分かってきてくれているようで、意見を言わせてくれることもありますが(笑)」

仕事をもつ読者へのメッセージをお願いしてみると、「仕事を好きになれるかどうかが大切だと思います。たとえ、希望した仕事じゃなくても好きな部分を見つけていく。そうすれば頑張れると思います」という応えが返ってきた

最後に将来の夢を聞いてみた。

山口「エミレーツ航空のCAとしていろいろなところに行かせてもらっているのですが、発展途上国で受けた衝撃は忘れられません。小さな子供がお母さんの前で道行く人に寄付をせがむ姿が切なくて。それで、自分でもなんとかしてそんな子どもたちを勇気付けてあげたいと考え、できることから始めようと、発展途上国の子供と文通を始めました。また、お小遣い程度ではありますが、専門の団体を通じて発展途上国の子供向けの寄付もしています。信じて頑張れば大丈夫だよ、と希望があることを伝えたいですね。日本人は親切で優しいと思われていますから、その日本人で良かったと思えるようにしていきたいと思います」

お気に入りの仕事道具には、「プレゼントでいただいた」というイニシャルと同じ「T」の字入りティファニーのペンも。右はエミレーツ航空特製のグリーティングカード