アーティスト 中村達也の役者としての魅力

――主演の中村達也さんは誰もが知るドラマーのひとりです。役者としての中村さんは、どうでしたか?

豊田「中村達也さんが役者として起用された映画もいくつか観ましが、達也さんの役はキレてる役とかが多いのです。でも、僕が表現したいのは、それではなかった。普段、達也さんと一緒に呑んだり、喫茶店で静かに話している時、僕が感じるのは、彼が自然に醸し出す空気が野生的だということなんです。『動の野性』じゃなくてそういう『静の野生』の部分をこの作品では、捕まえたいと思っていました。そういうほうが映画だと、僕は思います」

――8分にも渡る静と動が入り混じった蘇りの場面は凄い迫力でした。

豊田「あれは中村達也のステージですよね。ドラムのインプロビゼーションのように叫びまくるんですが、あの場面では喜び、怒り、悲しみ、様々な感情がシンコペーションのように上がる。あれは、なかなか他の人には出来ない演技です」

――中村さんもまさに言葉以外で伝える役者ですね。

豊田「セリフでなく映像で伝えたいというのは、僕があまりしゃべらないせいですね。自分が感情移入できるのが、そういうキャラクターですし」

日本を代表するロックドラマー 中村達也(写真右)が、凄腕の按摩師を演じ、役者としても凄まじい存在感を放つ

映画はやりたいようにやるゲームなんだ

――最近の映画は全てをセリフで説明するというか、テキストが多い傾向にあります。豊田監督の作品はそうした流れとは真逆なわけですが、監督として違和感を感じる部分はありますか?

豊田「他人の映画を観ると感じますね(笑)。でも、僕はそれでいいと思ってやっています。僕の作品は、マーケティングリサーチ映画じゃないですから。マンガ原作を持ってきて、主役の俳優を揃えて、色々なタイアップをとるような作品とは違いますし、特に今回はそれとは真逆の事をやりたかったんです」

――確かにそういった邦画の方程式に囚われず好きにやられているという印象があります。

豊田「ただ、もちろん、それにはマイナス面もあるわけです。この作品は予算がない。予算がないので、撮影期間も10日間しかない。でも、僕は『これは10日間でやりたいように撮るというゲームなんだな』と割り切って走ったんです」

――『蘇りの血』で復活された豊田監督ですが、これからはどう走っていくのでしょうか?

豊田「これからは、休んだ分を取り返したいですね。できれば年に1本。可能なら2本監督したいです。今はそれぐらいのモチベーションあるので、5年くらいは走りたいですね」

――この作品を、どう楽しんで欲しいですか?

豊田「神々しく荒々しい自然と、人間が本来持つエネルギーみたいなものを、頭で考えるのでなく、感じて欲しいですね。それで観てくださった方が、叫びたくなるような瞬間があったら嬉しいです」

『蘇りの血』は12月19日より渋谷ユーロスペースほかにて全国順次公開

撮影:岩松喜平

(C)「蘇りの血」制作委員会