10年後にも愛される作品をクリエイトしたい
『こま撮りえいが こまねこ』の最新作である『こま撮りえいが こまねこのクリスマス ~迷子になったプレゼント』の合田経郎監督は、NHKの『どーもくん』など、様々なキャラクターを生み出してきた人物だ。彼が人気キャラクター創造の秘密から、ストップモーションアニメの魅力まで、全てを語りつくす。
――今回の『こまねこ』はどんな思いが込められた作品なのでしょうか?
合田経郎(以下、合田)「自分たちが制作する作品は、どうしても手間が掛かる部分があります。ぱっと観ていただいて、ぱっと楽しんで終わるというエンターテインメントもあるとは思うのですが、手間も掛かっただけに、できれば10年後も20年後も愛されるような作品にしたいと思っていました。クリスマスという作品の題材も、コマ撮りという手法も普遍的なものです。シーズンは限定してしまうかもしれませんが、毎年クリスマスシーズンに観ていただけるような作品にしたいと思い創りました」
――時間は短いのですが、繰り返し読む絵本のような雰囲気のある作品ですね。
合田「絵本もページとページの間の描かれていない時間を想像させるような物だと思います。『こまねこ』も、観る人の年齢や状況によって感じ方が違う作品にしたかったのです。長編にはない、時代を越えて繰り返し見たくなるような短編の良さ。それが『こまねこ』らしさだと思います」
――今回は動物たちの世界に人型の人形が、クリスマスプレゼントとして登場しますね。
合田「動物の世界だけど、あえて人型の人形を出しました。親が小さな女の子に送るプレゼントの象徴として、ああいった人形を選びました」
――手法として、コマ撮りという手間の掛かる方法を選んだのはなぜですか? 海外では、長編のストップモーションアニメ作品もありますが、日本では、あくまでも映像のワンパートだったりという扱いが多いですよね。
合田「確かに、コマ撮り作品は海外では映画として成立しています。日本では、教育テレビやCMなどか、アートアニメと呼ばれる作品に二極化しているというのが実情だと思います。ただ、『アート』と認識されてコマ撮りの敷居が高くなるのは淋しいと思います。僕は、コマ撮りでアートと子供向けのど真ん中を行きたいんです。コマ撮りは楽しい物だということを、『こまねこ』などの作品を通して多くの人にわかってもらえたら嬉しいですね。」
最新CGも数年後には古くなるが、コマ撮りはタイムレス
――合田監督は、コマ撮りという手法にこだわりがあるようですね。
合田「コマ撮りは、タイムレスというか、古くならない、伝統的で古典的な手法です。はっきり言えば、すでに古い手法なので、もう古くならない(笑)。だからこそ、この手法なら長持ちする作品が作れるかもしれないという希望を持って作っています。例えば、映画『トランスフォーマー』の映像はもの凄いけど、10年たって見たら"しょぼい"と感じてしまうかもしれない。コマ撮りは、そう思われない手法だと思います。後は、手作りであるという部分ですね。人形も、セットも何もかもが手作りなので、その温かみを他の手法で出すのは難しいと思います」
――『こまねこ』のような作品は、人形制作者、人形や背景を動かすアニメーター、照明、撮影など、それぞれの果たす役割がかなり大きいと思うのですが、こうったコマ撮り作品における監督の役割とはどんなものなのでしょうか?
合田「色々、口は出すけど何も出来ないのが監督なんです(笑)。ただ、コンテは全て僕が描いています。何も出来ないと言っても、ただ『赤い丸を塗りなさい』と指示するのと、『これは元気な太陽です。描いてください』と指示するのとでは、出来てくる物が違うと思うんですよ。そういう意味で、色々なスタッフになるべくしっかりと伝えて、楽しんでやって貰おうと思っています。それが自分にとっての最大の仕事ですね」
――実際、コンテの再現度はどのぐらいなんでしょうか? コンテを正解として撮影していく方法と、組まれたセットに合わせて絵としての正解を導き出すという方法があると思うのですが。
合田「コンテはかっちりとしたものを描いています。僕の作品の場合は、コンテを再現するためにセットを組んでいくという手法ですが、現場では僕はコンテをあえて持たないで撮影に臨んでいます。コンテに合わせて組まれたセットに、多少の変更を加える事もあります。コンテの再現というだけでなく、現場から生まれる物も大切にしたいと思うのです」
――そのようにして作られた監督の作品ですが、今回の作品はどのように楽しんで欲しいですか?
合田「家族がテーマという感じなんですが、クリスマスに家族や恋人と一緒に観て欲しいですね。『こまねこ』を観て、大切な人と一緒に居れることが、凄く幸せなんだと感じていただけたら嬉しいです」