11月23日にバージョン10.10がリリースされ、「Opera Unite」など新たな機能が多数追加されたOpera。本誌は、Opera Software International 日本法人代表の冨田龍起氏、および同社 Web EvangelistのDaniel Davis氏に、新機能の概要やOperaの開発方針、今後の予定などを伺ったので、その内容を基に同Webブラウザを取り巻く状況について改めて整理しよう。

なぜかシェアが落ちないブラウザ Opera

Opera Software International 日本法人代表 冨田龍起氏

Net Applicationsの報告によれば2009年1月から1年間で、IEは70%弱から63%強までシェアを落とした。一方でFirefoxは22%強から25%弱までシェアを増やしている。バージョン別にみればIE6、IE7、IE8、Firefox 3.5のシェアは拮抗しつつあり、15%から20%ほどのブラウザ4種類で7割を越えるシェアを確保している。ここに4%前後のシェアを確保しているSafariとChromeが加わる。SafariはMac OS Xのデフォルトブラウザだ。

そして、ここにOperaが加わる。Operaは2%から3%の間でほとんど一定したシェアを確保している。Opera miniを加味すれば3%ほどのシェアを確保していることになる。Operaの安定したシェアは変動の激しいブラウザシェアにおいて奇妙にみえる。この2年間、外部からはOperaの動きがよく見えなかった。Chromeは恐ろしい勢いで開発と成長を遂げている。既存のブラウザやユーザの要求を研究した設計と実装。Firefoxを手放せないとは言いながらも、Chromeを最速と認める開発者は多い。今最速なのはChromeだ。ChromeOSの登場で今後のシェア拡大も揺るぎないとみられる。

こうした状況において、なぜOperaがシェアを落とさないのかが不思議に見える。この2年間、Firefox、Safari、Chromeの進歩は目を見張るものがあった。特にChromeの開発速度は特記すべきものだ。これと比べるとOperaの進歩はそれほど目立たない。これまでカッティングエッジといえばOperaという印象が強かっただけに、この2年間のOperaの動向は黙して語らずといった風にすらうつる。

にもかかわらずOperaのシェアは揺るがない。Net Applicationsは2009年7月のブラウザシェア報告で集計方法を変更。結果的にOperaはシェアを増やしてすらいる。世界的に見るとシェアの低いOperaだが、欧州、特に東欧では高いシェアを確保している。なにかの魔法でも使っているように見えるが、根強いシェアには理由がある。

Operaをつくっている技術屋カンパニー Opera Software

技術に焦点をあてる前に、あまり紹介されることのないOperaの開発元であるOpera Softwareという企業を紹介しておきたい。Opera Softwareは1994年に設立された企業。ノルウェーでもっとも大きな通信会社Telenorの研究プロジェクトとして発足したOperaブラウザの開発を専門に実施する企業としてスピンアウトした。ブラウザ開発の企業としてはかなり歴史が長い。

Opera Software International, Web Evangelist, Daniel Davis氏

従業員は世界中に750名ほど、ノルウェーがマザーカントリーだが、開発は主にノルウェー、スウェーデン、ポーランドなどで実施され、実に500名ほどがエンジニアとして開発に従事している。実際には世界各国にエンジニアがおり、ワールドワイドで開発が実施されているという。

デスクトップ向けのブラウザはWindows、Mac OS X、Linux以外にもFreeBSD、Solaris版が提供されている。バージョンは古いがQNX、OS/2、BeOS向けもリリースされている。OSSを除外すると、これほどたくさんのプラットフォームにブラウザを提供しているベンダはほかにない。

事業の主体は組み込みデバイス向けのブラウザ提供で、世界中のさまざまな組み込みデバイスや家電デバイスにOperaを提供している。任天堂のDSiやWiiでOperaが使われているほか、最近ではソニーの携帯や東芝のテレビCELL REGZAにOperaが搭載されている。最近ではテレビが双方向の通信端末としての機能を持つことが多く、この分野でOperaの採用が進んでいる。たとえばテレビを見ながらその番組についてTwitterでつぶやくといったことが、テレビの中のOperaからできるようになるといった具合だ。

開発者が世界中にいてバーチャル化が進められているため、時差を利用してフルタイム開発が可能という強みもある。たとえばあるメーカから新しい機能の要望があった場合、時差を利用して24時間体制で開発できる。迅速さが要求される家電向け開発において世界中に拠点があることの強みが活かされている。

なおOpera SoftwareはWeb関連の標準化団体への参加が積極的であることでも有名。750名のうち20名ほどを標準化の取り組みに専属で割り当てている。この規模の企業でこれだけの人数を標準化作業に割り当てるのは異例といえるが、同社としては当然の取り組みだという。Webの標準化団体にはデスクトップ向けプロダクトを提供しているベンダの参加が多いため、自然と仕様もデスクトップでの利用を想定したものになる。Operaは組み込みや家電での経験を活かし、そこで組み込みにも適用できる仕様を提案する。どのデバイスからもインターネットにアクセスするというOperaの理念を実現するためには、標準化の段階でその取り組みをおこなうのが得策というわけだ。

とにかくイノベーション、まずは技術

情報発信という視点から見れば、オープンソースソフトウェアはかなり強い。Firefoxは典型的な例だ。ソースコードが公開されているし、関係している開発者やデザイナからブログやTwitterを通じて最新の状況や技術、今後の方針や議論などが随時伝えられる。その頻度はとても頻繁だ。Firefoxがどういった状況にあり、今度どの方向に進もうとしているのか、手をとるようにわかる。

オープンソースソフトウェアの旨味とベンダ主体開発の強みを活かしたChromeも、そのあたりはうまくやっている。WebKitの開発をオープンソースソフトウェアとして公開しているSafariも同じだ。かなりクローズドで状況がよくわからないのはIEだが、Operaもこれに負けないくらい、何が起こっているのかがよくわからないところがある。

Operaは組み込みベンダや家電メーカと連携して開発を進めている。このため、Twitterやブログで気軽に情報発信してしまうと、そのベンダやメーカの戦略を漏らしてしまうかもしれないという側面がある。しかしどちらかというと、従業員がとにかくイノベーションや開発することに熱中していて、情報発信にあまり重要さを置いていないことに一因があるようだ。Opera Softwareは750名中500名を開発者に割り当てるなど、いわば技術屋の企業だ。情報発信にはそれほど熱心ではなかったというのがこれまでの実状のようだ。