東京証券取引所と松井証券は8日、米国のダウ・ジョーンズ工業株30種平均を対象指標としたETF(上場投資信託)である「Simple-X NY ダウ・ジョーンズ・インデックス上場投信」が10日東京証券取引所に上場されるのを記念し、『NYダウ上場投信(1679)上場記念セミナー』を開催した。

鉄道株を平均した「レイルロード・インデックス」が起源

海外指数に連動するETFは、BRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国)をはじめとした新興国の株価指数に連動するものはあるが、日本の市場と特に関連性の高い、米国のダウ・ジョーンズ工業株30種平均に連動するETFは国内初となる。

ストックス リージョナルディレクターの大久保隆史氏

東京証券取引所と松井証券は、同ETFの上場を記念し、『NYダウ上場投信(1679)上場記念セミナー』を、東京証券取引所のアローズ プレゼンテーションステージで8日開催した。同セミナーでは始めに、スイスに本社を置き、幅広い株価指数を提供するストックスのリージョナルディレクターを務める大久保隆史氏が、「ダウ工業株30種平均について」と題し、ダウ・ジョーンズ工業株30種平均の歴史について話した。

大久保氏によると、19世紀末の米国の証券市場は投資家からの信頼感が薄かったが、1884年に、チャールズ・ダウが、当時の基幹産業だった鉄道企業9社とその他2社を平均した「レイルロード・インデックス」を考案、市場・景気の指標とした。1896年には、より広範囲の市場をカバーする「ダウ・ジョーンズ工業株平均株価」を開発。ダウ・ジョーンズ工業株平均株価は、その当時、大手企業12社を合計し12で割るものだったが、1916年には銘柄数が20、1928年10月には構成銘柄数が30に拡大し、その時点で「ダウ工業株30種平均」とも呼ばれるようになった。

1884年に、チャールズ・ダウが、当時の基幹産業だった鉄道企業9社とその他2社を平均した「レイルロード・インデックス」を考案した

ダウ・ジョーンズ工業株30種平均の構成銘柄となるには、米国上場の企業で、運輸・公益を除く企業であることが必要。構成銘柄は常に、(1)米国企業、(2)業界のリーダー、(3)幅広い投資家が株式を保有、(4)長期間安定している成長企業、などの条件を満たす企業となっている。構成銘柄に入れ替えはほとんどなく、(1)主力事業に変化、(2)企業買収、(3)経営破綻、などがあった場合に見直される。

ダウ・ジョーンズ工業株30種平均の構成銘柄

他のダウ指数とは違い、特定の見直しスケジュールを設けていないのも特徴で、見直しのあるときは、構成銘柄全てが対象となる。構成銘柄はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の編集長に委ねられており、あらかじめ決められた基準はないという。銘柄入れ替えは、意図的に指数を押し上げたり、作為的に株価操作することを意図して選ばれることはなく、市場の動きを測定することを目的としている。

現在の構成銘柄は、IBM、Microsoft、Cisco SystemsなどのIT企業、Coca-Cola、McDonald's、Johnson&Johnsonなどの民生企業、Exxon Mobil、Chevronなどのエネルギー企業、Bank of America、American Expressなどの金融企業など、さまざまな業種の企業で構成されている。

小額からの投資が可能な「NYダウETF」

シンプレクス・アセット・マネジメント 運用本部 シニアトレーダーの尾嶋幸太氏

大久保氏に続き、10日東証に上場されるETF「Simple-X NY ダウ・ジョーンズ・インデックス上場投信(愛称 : NYダウETF)」の管理会社である、シンプレクス・アセット・マネジメント 運用本部 シニアトレーダーの尾嶋幸太氏が、「NYダウ上場投信の商品内容について」と題して話した。

尾嶋氏によると、NYダウETFは、先進国の株価指数に連動するETFとしては、日本初のETF。投資信託証券に投資する「ファンド・オブ・ファンズ」となっており、ケイマン諸島籍米ドル建外国投資信託である「シンプレクスNYダウ・ジョーンズ・インデックス・トラッカー・ファンド」と、証券投資信託「SAMマネー・マザーファンド」に投資する形となる。取引所における売買単位は10口(1口9,000円)で「小額からの投資が可能となっている」(尾嶋氏)。

国内株式と同じ売買手数料率で購入が可能で、「信託報酬も一般的なインデックス型の投資信託と比較し、低く設定されている場合が多く、売買や保有にかかる手数料は割安な場合が多くある」(同)としている。また、国内ETFは金融商品取引所に上場されているため、取引時間中であれば、いつでも売買が可能となっている。

尾嶋氏はこうしたメリットのほか、投資リスクについても説明。特に為替変動リスクを挙げ、「外貨建資産を保有するため、当該通貨と円との為替相場変動の影響を受け、損失が生じることがある」とし、「一番気をつけてほしい」と説明した。

「政策効果のあるうちに回復に移行できるか」が焦点

松井証券 マーケットアナリストの土信田雅之氏

セミナー第2部では、松井証券 マーケットアナリストの土信田雅之氏が、「信用取引を利用したETF取引の活用法と日米市場の今後の見通し」と題し講演。土信田氏は個人投資家によるETFの活用について、「少額で始められるインデックス運用」「ポートフォリオを組む」「信用取引が利用可」などのメリットを挙げた。このうち、「ポートフォリオを組む」では、保有している株式と異なる性質を持つ業種のETFを買うことで、保有資産のバランス・弱点を補強することができると説明した。

例えば、トヨタ自動車、ソニー、パナソニックなど外需・輸出関連株を保有している場合に、「TOPIX-17 食品」を対象指標としたETFや、「TOPIX-17 電力・ガス」を対象指標としたETFなど、内需関連のETFを購入する例を挙げた。

「信用取引が利用可」という点については、例えば保有現金が300万円で信用取引の委託保証金率が30%の場合、(1)現物でETF300万円分を購入、(2)信用取引でETF1,000万円分を購入、(3)信用取引でETF300万円分を購入(必要保証金90万円、残り210万円の余力)、などの購入パターンがあると説明した。

土信田氏は、「政策効果のあるうちに、自らの足を地につけた回復に移行できるか」が注目点であると説明した

今後の見通しについては、現在の世界的な株価回復の背景に「各国の積極財政による経済政策」と「金融緩和による流動性供給」があると説明。今後の注目点については、「政策効果のあるうちに、自らの足を地につけた回復に移行できるか」とし、「為替(ドル)の動向や雇用情勢に注目していくべき」と述べた。また、国内においては、企業の設備投資が2010年にどれほど回復してくるかに注目すべきと話した。