カシオ計算機 羽村技術センター
開発本部 時計事業部 商品企画部 第二企画室
千葉のり子さん
2003年入社。理工学部出身で、女性として初めて時計外装設計セクションに配属。各部品の設計から強度、規格、耐衝撃性、防水性能のチェックなどを3年行う。「とにかくカワイイものが大好き!」ということで、現在は念願のBaby-Gなどの商品企画に邁進。おしゃれ好きでパーソナルカラー診断にハマっている

編集A「カラフルでポップなイメージの強いBaby-Gの商品企画を、男性が担当しているなんて、意外ですね」

田部「よく言われます(笑)。女性誌に目を通したり、社内の女子にアンケートをとってニーズを探ったりして女性的な視点を勉強しています」

編集A「女性と男性の感覚のギャップを埋めるために努力されてるんですね。女心がわかるとプライベートでも活かせそうですが…」

田部「や、その点ではあまり役には立ってないですね(笑)」

――(笑)。本題に入りますが、新作G-msの特徴や方向性、実用的な面などを改めて教えてください。

千葉「大人の女性、特にOLさんたちといった働く女性に、オフタイムだけでなくオンタイムにも着けてもらえるスタイリッシュな時計であることを目指しています。アクセサリーなどでもいま、ピンクゴールドが流行っていますよね。そこで、ニューモデルの『MSA-7100DGJ』を企画しました」

田部「新型の小型多針ムーブメントの採用により、従来の電波機能(時刻自動修正機能)付きモデルよりもケースサイズを小型化することで、女性が着用しやすくした点が大きなポイントですね。デュアルタイム表示で、海外旅行・出張の際なども現地時間と日本時間がわかるのでアクティブな女性向けかと。向かって左下のボタン操作だけで、時間設定ができるなどアナログ派の女性にもやさしい設計となっています」

編集A「たしかに、多機能でも操作の仕方がわかんないと諦めちゃうときありますからね(笑)」

――そういう優しい配慮も女性の千葉さんならではですね!

女性用G-SHOCKこと「Baby-G」(BGA-113B/BGA-103)、より洗練されたスタイリッシュさが魅力のBaby-G上位モデル「G-ms」(MSA-7100DGJ)。ファッションやミュージックなどのトレンドを取り込む手法はG-SHOCKと同様

千葉「G-msのデザインの方向性としては、異素材ミックススタイルが挙げられます。メタルと樹脂の組み合わせにより、メタル素材だけでは表現できない、新しい"かたち"を模索しました。耐衝撃・防水性能といった、カシオが誇る高い機能性からくる必然的な"かたち"をデザインに変換することで、美しさと機能の両立を追求しています。また樹脂の軽さを活かすだけでなくバンドの駒に隙間を設けることで、女性が着けやすい軽さになるよう工夫しています」

バンドの駒に隙間を設けるなど細部にも女性ならではのこだわりが

――たしかに、ここは樹脂なんですね。ふむふむ、だから軽いのか。

千葉「例えば時計のサイドから見えるブラウン(樹脂)の部分は、デザインでもあると同時に、プッシュボタンを衝撃から守る役割もあるんです。それに12時と6時位置に見えるブラウンは、デザイン上のアクセントであると同時に、後方部分が裏蓋を押さえているんですよ」

――なるほど。まさに進化する機能=デザイン、インダストリアルデザインのアルカディアですね。

編集A「最後のアルカディアって例えがわかるような、わからないような。で、千葉さんが美人だからって、彼女にばっか話を振りすぎですよ」

――き、気を付けましゅ。(気を取り直して)田部さん、ケースサイドのブラウンの部分ですけど、ほかにも秘密が隠されてるんじゃないですか?

カシオ計算機 羽村技術センター
開発本部 時計事業部 商品企画部 第二企画室
田部宏和さん
1992年入社。LSIの開発などを経て、商品企画では子供向けや海外向けの腕時計を皮切りに、女性用のBaby-Gに着手。男でありながらも現在もBaby-Gの開発に携わる。毎月多くの女性誌にも目を通し、ファッショントレンドや女心を学ぶ

田部「鋭い。レイヤーによりスリムに見せる効果もあるんですよ。それにディテールですが、ベゼル(ダイヤル外周部)に注目してください。冒頭の"男女の感覚の違い"に繋がるのですが、タフなイメージを表現するために、力強さを全面に打ち出したデザインでストレートに表現するといった男性感覚ではなく、部分的にスタッズを用いることでスタイリッシュさと力強い世界観を女性らしく演出しました。男性は一般的に、機械式ムーブメントなどのメカメカしさなどで自己満足しがちですが…」

千葉「女性は違うんです! オンナは人に見られて、評価されて、誉めてもらいたい。その時計、いいねって」

編集A「あー。わかります。どうせならセンスいいと思われていたいです」

千葉「季節によってアクセサリーのカラーを変えたり、トレンドカラーをファッションに取り入れたり、女性にとって色は大切なんですね。で、新作では白い時計も絶対に必要だ! って主張して、メタルとホワイト(樹脂)のコンポジット・モデル『MSA-7100CJ』もつくりました」

ホワイトを基調としたコンポジット・モデル「MSA-7100CJ」

田部「カラーにこだわりがある女性が多く、Baby-Gはホワイトモデルの人気が高いんですよ」

千葉「白い時計って、いろんな装いに合わせやすいので、1本持っていると女性は便利ですよ。ピンクゴールドモデルに採用したピラミッド型のインデックスもこだわりのひとつ。さりげなくキラっと光るのがいいな、と。パーツが増えると耐衝撃テストでのハードルがあがるので設計の人にはイヤがられたんですけどね(笑)。インデックス部分の脚を強くかしめることで実現してもらいました」

――千葉さんはもともと設計部にいらっしゃったから、古巣に対して強気に出れるのも利点というか(笑)。

田部「おかげでアイデンティティーである、G-SHOCK構造により耐衝撃性も万全です」

――男性用のタフ系ウォッチ・マーケットをG-SHOCKで席巻したので、お次は新作G-msで、女性用のウォッチ・マーケットの攻略ですね。

編集A「それはもう、既存のBaby-Gで実現済みの気もしますが」

田部「いえいえ、上層部からは"男女同等"という命題が出ていますから」

――というと?

田部「G-SHOCKでとれた男性マーケットのシェアと同じボリュームに少しでも早く近づけるように努力します」

開発途中に作成されたデザイン画。これを形にしていくのが千葉さんと田部さんの仕事だ

――G-SHOCKでの実績もデカいだけあって、次の目標もデカいですね。期待していますよ。本日はありがとうございました。また会う日まで。