Googleのクラウドの牙城に挑み続けるMicrosoft - Gartnerアナリスト語る

MicrosoftとGoogle - 巨大IT企業という点を除き、企業としての成り立ちも、ビジネスモデルも大きく異なるこの2社はいま、"クラウドコンピューティング"というIT業界の一大トレンドを戦場として、その覇権をめぐる激しい闘いを繰り広げている。果たして勝機はどちらにあるのか。「世界で最も影響力のあるアナリスト」として著名な米Gartner Researchのバイスプレジデント兼フェローを務めるDavid Smith氏の分析を聞いてみた。

「従来までの見方 - すなわち、GoogleがMicrosoftを追いかけているという前提は間違っている」とSmith氏は冒頭から"Google有利"をにおわせる発言を行った。「コア技術に関しては、今はMicrosoftがGoogleを追いかけている状態だ」(Smith氏)

まずは現状の両者について、同氏は「Googleは"カウボーイ"、Microsoftは"スチュワード"」と位置づけ、以下のようにそれぞれを評している。

Google - メディアカンパニー

• 情報の大衆化を推進
• エンタープライズよりもコンシューマ優先、既存の顧客よりも次の20億人にリーチすることをめざす
• Googleのめざすところを邪魔する存在を否定→OS、RIA、Pipesなどをみずから開発
• 急進的なイノベーション
• クラウドベース
• 非対称的な争い(Google Street ViewやGoogle Book Searchをめぐる国や一般の人びととの係争)が多い

Microsoft - ソフトウェアカンパニー

• 技術の大衆化を推進
• エンタープライズにおける秩序ある成長
• 次世代アプリケーションのプログラミングプラットフォームを開発/提供
• これまでとは別の収益源(ゲーム、検索広告など)を模索中
• クラウドとオンプレミスの双方をカバー
• 一度ある技術に手を付けたら、なかなかあきらめない

この分析から、既存のビジネスモデルは大切にしながらも、クラウド市場でもリーダーシップを握ろうとしているMicrosoftと、ときには破壊に近い大胆なイノベーションを繰り返しながら、クラウド市場でエンドユーザのニーズをがっちりと押さえているGoogle、という構図が浮かび上がってくる。

「Microsoftはクラウドに対して非常に野心的。もちろんオンプレミスのビジネスも手放さない姿勢を見せている。他の企業がここまでやるのはとても無理」とSmith氏。だが、その弊害として「コンシューマとエンタープライズ、ソフトウェアライセンスモデルとサブスクリプションビジネス/広告モデル、リッチクライアント/RIA(Silverlight)/ブラウザ/モバイル/CE、開発とデプロイ…すべてを同時にやろうとしているため、ビジネスが非常に複雑になってきている」とも指摘する。

Microsoftは長い間、WindowsファミリというOSを核にあらゆるビジネスを進めてきた。Azureなど、同社のクラウドに対するアプローチもWindowsをベースにしていることに変わりはない。だが一方のGoogleは、OSすらプラットフォームとしては見ていない。同社にとって、ブラウザを介してアプリケーションを動かせる環境こそがプラットフォームであり、先日同社が発表した"ChromeOS"は、WindowsやMac OSのようなOSではなく、アプライアンス(ネットブック)に徹した動作環境のひとつに過ぎない。

Googleは収入のほとんど(97%)を広告ビジネスから得ている。まずはクラウドを通してエンドユーザに幅広く技術を広め、そこから得られた情報を企業に売る、すなわち情報をモデル化することによって収益を上げるという仕組みを確立している。ここでGoogleはMicrosoftをはじめとする競合他社に圧倒的な差を付けている。コンシューマとエンタープライズのどちらも重要視しているMicrosoftが、今のままでGoogleに追いつくことは難しいというのがSmith氏の見解だ。ただし、だからといってまったく検索/広告市場にMicrosoftが入り込む余地がないかというと、むろんそうではない。「もちろんMicrosoftが撤退する可能性はあるが、少しずつながらも成長しているのも確か。この市場でMicrosoftが首位に立つのは無理かもしれないが、ビジネスを続ける価値はあると思う。また、顧客にとってもGoogle以外の選択肢があったほうが市場は健全といえる」(Smith氏)