デルが、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)市場において、存在感を高めている。
これまでは大規模な投資が必要となっていたHPCであったが、x86サーバやストレージといったハードウェアの高性能化や、マルチコア化が進展するCPUの性能向上などの影響により、コストを抑えながら高性能なコンピューティング環境を実現できる環境が整ったこと、さらに標準技術の活用などにより、専任の技術者を置くことなく利用できるようになるなど、中小規模のHPCの導入が企業の研究所や大学の研究室などで促進されている。
言い換えれば、x86サーバなどの標準技術を活用する中小規模のHPC領域は、まさにデルが得意とする領域ともいえ、それが同社のHPC事業の拡大につながっているのだ。
そこで、デルのHPC事業の取り組みについて、デル 執行役員 北アジア地域 公共事業本部 統括本部長である郡信一郎氏に話を聞いた。
HPC市場は、今後、世界規模で拡大するとの予測が調査会社から発表されている。IDCの予測によると、 2010年には100億ドルの市場規模であったものが、2012年には156億ドルへと拡大。とくに、中小規模のHPC市場において、高い成長が見込まれているのだ。それにはいくつか理由がある。
ひとつには、HPCそのものの利用範囲が拡大していることだ。 「従来、HPCの利用は大規模計算機やスーパーコンピュータの分野に限られており、費用面や技術面から導入のハードルが高く、研究機関などへの導入が中心でした。また、運用には専門知識が必要とされ、研究者は自身の専門研究に加え、コンピュータに関する最新知識をもつ必要がありました。これがx86サーバをはじめとする標準的な技術を利用することにより、より低コストで、しかも専門知識を必要としないHPCの構築が可能となったのです」と、郡氏はその理由を語る。
HPCの利用範囲も拡大しており、海洋調査、油層シミュレーション、製造業、航空宇宙、化学、創薬、金融シミュレーション、自然化学などの分野に広がり、企業の研究所や大学の研究室など、前向きに導入を検討するケースが増えているのだ。
「これまではスーパーコンピュータによるひと握りの研究者だけが利用していましたが、ここに来て、いわば、HPCのコモディティ化ともいえる動きが起こっている」(郡氏)というわけだ。
そのためデルでは、大学の研究室、民間製造業の研究・開発・設計部門など、中小規模組織へのHPC導入を促進するため「パーソナル・スパコン」として、価格を抑えたHPCパッケージも用意している。
たとえば、PowerEdge R410 サーバが5台、 PowerConnect 2808 スイッチが2台、ストレージアレイPowerVault MD1000 1台のシステム構成では、設置費用を含め472万2,900円で購入でき、これらはキッティング、エージングの完了後、届けられる。
2つめには、HPCに積極的に活用され始めている「標準技術の進化」だ。x86サーバの性能向上、信頼性の向上だけでなく、CPUのマルチコア化が進展。HPCで求められるパフォーマンスを、低コストで実現できるようになっている。
「デルは、業界標準の最新テクノロジーをベースとした製品により、『ITのシンプル化』を提唱しています。第11世代のDell PowerEdgeサーバに加え、PowerVault、EqualLogicといった可用性、拡張性を確保した幅広い製品ラインナップを可能としたほか、GPGPU搭載ワークステーションにより、高性能でコストパフォーマンスに優れたHPCシステムを実現することができます。標準技術の進化とこれらを組み合わせることで、低コストで、高いパフォーマンスを実現したHPCを提供できるのです」(郡氏)。
標準技術がHPC分野で活用されはじめている背景には、研究所のHPC活用の形態が変化していることがあげられる。
「研究所同士のサーバをグリッド化して活用したり、個人的なネットワークを通じて、他の研究所のサーバを利用するといった使い方が広がってきました。世界中の研究所が協力しながらお互いのサーバを利用するという手法が広がるにつれて、標準的な技術がますます重要視されています」と郡氏は述べた。