若干の疑問

今回一番判りにくいのは、「Intelはどこまでやるのか」という話であろう。昨年、Ton Steenman氏インタビューした時に、彼は明確に「我々はMission Criticalな分野はやらない。もっと高機能、高付加価値な分野に専念する」と述べており、今回も確認したところ「例えばAnti-Lock Breakの制御の様なMission Criticalな分野は我々はターゲットとしていない。こうした用途には、それぞれ異なるI/Oや要件が必要になる。また、こうした用途はComputation Powerはそれほど必要ないし、その代わり消費電力や実装面積の小ささが求められることが多い。ただ、例えば電力のSmart Meterは、今は16bitのMCUがあれば処理は足りているが、将来的にはもっと付加機能が必要になってくるかもしれず、そうした場合にはまた別のストーリーが考えられる」と、少しだけ含みを持たせたものになった。

これに関連するのは、同氏の講演で一緒に流されたビデオである。先に産業用機器の話があったが、例えば省エネに関連して、モータの消費電力を抑えるためにMPUでPWMなどの制御を施すのが得策という話があることに触れ、「Atomでモータ制御を行い、それをCoreプロセッサで集中管理することで低コスト化が図れる可能性がある」といった内容を紹介した。確かにこれは可能性としてはあるのだが、2つ問題がある。1つは、工場の制御などはしばしばMission Criticalな要素を含むことだ。例えばPLCが暴走してラインが止まったりすると、億規模の損害が出る事は現場では珍しくない。あるいはCNCの制御がおかしいと、近くの作業員に危険が出る可能性は否定できない。こうした用途はIntelの中でMission Criticalにあたらないのだろうか? というのは非常に疑問が残ることだ。これは自動車向けも同じで、確かにカーナビやメディアプレーヤが止まっても、困りはするだろうがそれが致命的な要素になる可能性は少ない。が、ダッシュボード表示が止まるとこれはかなりCriticalに分類されそうに思う。

もう1つは、例えばモータ制御である。今現在こうした用途には、おおむね16bit程度の処理性能(Cortex-M3を16bitと見なすか32bitと見なすかは立場で異なるが、性能レンジとしては16bitクラスである)を持つ8~32bitのMCUが使われている。大体のケースでは1~3個のモータを制御するためのPWM回路が組み込まれており、中にはモータのハウジング内に搭載できる動作温度範囲を持った製品すらあり、外部とは大体SPIあたりで繋がることが多い。

これをAtomで代替するのは、非常に非現実的に思われる。無駄にパワフルすぎるし、それでいて規模がでかく、コストも高い。Cortex-M3の様なプロセッサとコスト面で互角に争うためには、1つのAtomの下に数十個のモータがぶら下がり、これを集中管理するような仕組みになるのだろうが、それはむしろシステム全体として高価につきそうだ。