IBS(過敏性腸症候群)という病気をご存知だろうか? 最近、CMやマスコミで取り上げられるようになっているので、耳にしたことがある人も少なくないだろう。通勤途中やプレゼンの直前に突然便意に襲われ、下痢や腹痛に繰り返し悩まされる症状がIBSの特徴である。だが、体質の問題とされ、病気と認識されるケースがこれまでなかったのが実情だ。

IBSについて男性2万人の実態調査を行った島根大学医学部の木下芳一氏によれば、IBS該当者は8.9%であり、若い世代に多いことが判明したという。潜在患者も含めると、日本人の10~20%がIBSにかかっているというデータもある。

IBS(過敏性腸症候群)に関する情報が満載の「IBSネット」

発生率が高いのは、前述したように仕事の途中、通勤・通学や旅行での移動中など。だが、病気だと認識しているのは37%程度で、残りは病気とは考えていないということが、木下氏の調査でわかった。IBSの原因は、ストレスや生活環境、遺伝的要因などとされる。下痢タイプ、便秘タイプ、両者の混合タイプなど便通の異常があり腹痛をともない、それが慢性的に繰り返されるが、検査をしても大腸炎などの疾患は見られない。

IBSにかかりやすいのは20代から40代で、これらの世代は下痢タイプが多いという。鳥居内科クリニック 院長/医学博士の鳥居明氏によると、職業別の傾向としては、

  • IT系で自分の席に座りっぱなしの状態で仕事をしている人
  • 製造業のラインに組み込まれている人
  • バス・電車の運転手

に多く罹患患者が見受けられるとのこと。「彼らに共通しているのは、業務の順序、時間を他人に決められており、自分の自由がきかないという精神的な負荷が多いことである」(鳥居氏)。ストレスにより交感神経と副交感神経のバランスがくずれて腸のリズムが乱れ、腸の運動をコントロールするセロトニンという物質が過剰に分泌される。それが下痢や便秘の原因となる。

また、年代別の傾向としては、10代の若年層、60代から70代の高齢者の罹患患者も増加している。若年層については、学校や職場でのストレス負荷、また高齢者についてはストレスに対する抵抗力の低下が原因だとされる。また、小学生ぐらいの幼い子供の罹患患者も増え始めているとのこと。学校や学習塾、家庭(特に親から与えられるプレッシャー)でのストレス負荷も原因であるが、親からの遺伝もその一因であるようだ。

そして、IBSになるとストレスが解消されても腹痛などが治まらず、IBSの症状そのものが新たなストレスとなって悪循環を招いてしまう。IBSが悪化してうつなどの症状を併発したり、転職を余儀なくされるケースもあるという。命に関わる疾患ではないものの、似たような症状に悩んでいる人は次のチェックシートで診断してほしい。

おなかの痛みや不快感を1カ月に2回以上くり返す

↓(YES)

おなかの痛みや不快感は排便をするとやわらぐ
おなかの痛みや不快感にともなって、排便の回数がいつもより増えたり減ったりする
おなかの痛みや不快感にともなって、便がいつもより軟らかくなったり硬くなったりする

↓(YESが2つ以上)

便に血が混じることがある
最近やせてきた
日中だけでなく、就寝中などの夜間にも、排便のためにトイレに行きたくなったり、おなかが痛くなったりする
50代以上で発症した

↓(NO)

最後の4項目のうち1つも該当がない場合はIBSの可能性がある。ちなみに、この4つのうちいずれか該当するものがある場合は、大腸炎や大腸がんの可能性があるので、医師に相談が必要だ。

IBSが疑われる場合は、専門の医師の診断を受けることをおすすめする。関連施設については、次のサイトで確認することができる。

鳥居氏はIBSの対策として「症状を知ること、生活習慣を改善すること、薬を摂取すること、精神療法(ストレスを感じないように心がけること)」を挙げた。なかでも、日頃から心がけられることとしては、「歩行」が有効的だと鳥居氏。「歩行は自律神経の働きを活性化させ、生活改善の助けとなる。また、『食事の改善』も効果的である。下痢型の場合は、油や冷たいもの、刺激物、アルコール類を避け、便秘型の場合は、逆に油分、水分、食物繊維を多く摂取すると良い。IBSの症状に合わせて、食事の内容を正しく対応させることが重要である」と指摘する。

昨年には、セロトニンの働きを抑え、効き目の早い薬イリボーも開発された。現在のところイリボーが処方できるのは男性のみだが、そのほかの薬もあるので、IBSの症状が見られる人は、自己流で対処するのではなく、医療機関で診断と治療を受けることが重要だ。