業務チームとシステムチームの架け橋を目指して
――技術知識を軸にしたコンサルタントとして活躍したきた石橋氏とは対照的に、豊富な業務知識を武器に、技術知識を補うかたちでSAPマイスターに上り詰めたのが宇部氏である。宇部氏にも、そのキャリアと得意分野について語ってもらったので、ご覧いただこう。
SAP: SAPマイスターへの殿堂入り、おめでとうございます。多くのコンサルタントの中で一番乗りですね。まず、これまでどのようなキャリアを積まれてきたのかお教えください。
宇部氏: 2001年に新卒社員としてテクノスジャパンに入社して以来、ロジスティクスの分野を中心にSAP ERPの開発を担当してきました。ロジスティクスとしては、業務要件の定義から、開発、本番運用まで、すべてカバーしてきました。
メインは業務寄りでしたが、それ以外にも、SAP BW、SAP NetWeaver PIの開発プロジェクトも経験してきました。
SAP: 今までコンサルタントしてどんなことを心掛けてきましたか。
宇部氏: プロジェクトごとに異なるお客様の社風に合わせることです。同じ業務であっても、お客様ごとに特徴があります。その背景には、お客様独自の社風があり、それが特徴であり、他社との差別化につながっています。それを迅速に理解して提案に織り込むことを心掛けてきました。
コンサルタントとしては、単にシステムを構築するだけでなく、お客様ごとの特徴を明らかにして、お客様の想いと私たちが提供するERPパッケージをすり合わせて、1つのシステムの形にしていくことが重要だと考えています。社風に合わせるというのは、そういうことを指しています。
SAP: なるほど、面白い発想ですね。いつごろからそう考えるようになったのでしょうか。
宇部氏: 最初の1、2年はOJTとして、現場でひとつひとつ学んでいくことが優先されていましたから、開発を進めることがメインになっていて、どちらかというとシステム寄りの発想をしていました。
自分で手応えを感じられるようになったのは、3、4年目くらいだったと思います。そのころからお客様と接する機会が増えて、いかにしてお客様のニーズをシステムに取り込むかを意識するようになりましたね。
SAP: SOAについては以前から関心を持っていたのでしょうか。
宇部氏: 今のSOAソリューションセンターに配属になったのは昨年ですが、SOAという言葉自体を明確に把握していなかったころから、業務システムをサービス化することについては、強い関心がありました。
SAP: 業務システムのサービス化に関心を持ったのには、何かきっかけがあったのでしょうか。
宇部氏: ERP導入プロジェクトを担当したお客様には大企業が多く、数多くのアプリケーションを持っているのに、非常に驚かされました。しかも、それが乱立していて整理されていないケースが多く、それぞれのアプリケーションをサービスという形で整理していくことが大切なんだと、システム開発の現場で実感していました。
たとえば、同じ受注プロセスであっても、商品や商流が違えば、処理するアプリケーションが異なっている場合があります。同じ業務を処理するのに、画面が違っていて、しかも、1人がいくつものアプリケーションを立ち上げて、それぞれに入力するといったケースさえあります。これでは効率は上がりません。
そういう現状を見て、常々、1つのプロセスには1つのアプリケーションが理想なんだと考えていました。当時は、インタフェースを統合しましょう、といった対症療法的な提案しかできませんでしたが、SOAを勉強したことで、根本的に変えていくような提案ができるようになりました。
SAP: SOAについてはどのように勉強してきたのでしょうか。
宇部氏: 最初はインターネットや雑誌の記事を読んで、自分の経験に当てはめて考えてみたり、ERPのプロジェクトの合間を縫って、研究会に参加したりしながら学んでいきました。
もともとERPのプロジェクト自体も、ERPパッケージと業務の接点を見い出すものでありながらも、アプリケーションが乱立している中で進めていくものが多く、SOAの考え方を当てはめるのは比較的簡単でした。その意味では、現場の仕事を通してSOAについて勉強したという感じです。
SAP: SOAへの深い理解が求められるSAPマイスターを目指すにあたり、苦労した点はどのようなところでしょうか。
宇部氏: SOAを理解するためには、業務とシステムの両方の知識を習得しなければなりません。業務については、ロジスティクスの分野は担当していましたが、会計や人事といった未経験の分野もありました。その部分の知識を身に着けるためには、読んだり聞いたりして勉強するしかなく、大変でしたね。
また、システムについてはSAP NetWeaver全般について知っておく必要があり、範囲が広く、どこまで学べばよいのか戸惑いました。実際には、SOAの概要を学ぶ「SOA100」とSAP NetWeaver全般についてのトレーニングを受けました。
改めてトレーニングを受けたことは有意義だったと思います。SAP NetWeaverの開発には携わってきましたが、基本的な考え方については、初めて勉強したという感じでしたし、SOAも含めて重要なポイントを分かりやすい形で吸収できたと思います。
SAP: そうした努力がSAPマイスターへとつながったわけですね。
宇部氏: 確かに、SAPマイスターに殿堂入りするために、新しく覚えることが多くありました。しかし、それはコンサルタントとしてのこれまでの仕事を振り返る意味でも重要だったと思います。今までのプロジェクトの経験に照らし合わせてSOAを理解することで、自分のものにできたと思っています。
SAP: 今後SAPマイスターとして、どんな活躍をしていきたいですか。
宇部氏: 今までの導入プロジェクトでは、業務担当とシステム担当がきれいに分かれていました。目線が違うのですから、当然です。でも、SAPマイスターとしては、その両方の目線を持たなければなりません。それを活かして業務とシステムのつなぎ役をこなしていきたいですね。
ただ、資格はあくまでも資格でしかありません。実践を通して自信を付け、実績を作っていくことが大事だと思います。そのための第一歩を今、踏み出したところです。
SAP: 将来の目標をお聞かせください。また、そのためには何が求められるのでしょうか。
宇部氏: 社内的には、業務担当とシステム担当の両方のチームをつなぐ役目を果たしていこうと考えているわけですが、そのためには、SAPマイスターとしての自分の知識を現場でどう使えるかが、今後問われていくと思います。
最も大事なのは、知識を活かしてお客様を納得させられる提案ができるかどうかです。同様に、お客様が疑問を持たれた時に、納得してもらえる説明ができるかどうかも重要です。技術力だけでなく、提案力があって、お客様に納得していただけるコミュニケーションに長けたコンサルタントになることを目標にしています。
※ 本稿は、SAPジャパン発行の『SAP CERTIFICATION VOL.6』に掲載された巻頭スペシャル『SAPマイスター誕生 SAP MEISTER AWARD 2009』を一部加筆・編集のうえ転載したものです。