日本は規模で負けても能力では負けてない
――給料などを含めたクリエイターに対する待遇に、日本と海外では差があるのでしょうか。
杉山「全てのクリエイターに当てはまるとまでは言いませんが、CGをやるにしても、Webをやるにしても、アメリカは日本と比べてはるかに給与水準が高いですね」
――それは単にアメリカのクリエイターの給料水準が高いのではなく、彼らがやっている仕事によって動いているお金が大きいからという一面もあるのではないかと思います。日本のマーケット規模に問題があるのでしょうか。
杉山「そうですね。それと、日本のクライアントには、クリエイターに"のびのび才能を発揮させてあげる"という考えがあまりないのではないかと思いますね。日本と海外で、同じアイディアを持っていても『いやー、どの程度の費用対効果があるか分からないから、見積もりの10分の1くらいの予算でやってみて』と言われてしまいがちです。当然ながらその条件を呑んでコンテンツを制作しても、大した成果を上げることはできません。しかし、クライアントはその結果をみて『やっぱり大した効果がないね』と言うんです。日本では、そういった負のスパイラルが出来上がってしまっているんですよ」
――日本には度量の大きいスポンサーが少ないということでしょうか。
杉山「日本にもいくつかいい例はあるんです。例えば日本マクドナルド。あの会社では、何年も前からモバイルの活用に一生懸命取り組んでいます。これまで、メール会員が増えないことを悩んだり、赤字が続いた時期もあったそうですが、徐々にノウハウを積み、今では1,300万人以上の会員にメールを配信しています。また携帯から取得できるクーポンをお店のレジでかざすだけで注文することができてしまうシステムも導入しています。こういう話をすると、『日本マクドナルドはお金があるからできるんだ』という方もいますが、そうではなく、その事業を成功すると信じて続けてきた結果なんですよ。そして結果が出たから、さらに投資ができて、会社内でその事業の予算枠がつき、専用の会社まで設立可能になったのです。このように、日本にも勇気づけられるような例が出てきましたね」
――日本のクリエイターのレベルは海外と比較したときにどうなのでしょうか。
杉山「海外と比較しても、日本のクリエイターはかなり優秀だと思います。制作物のクオリティの高さと制作期間の短さを加味したら、日本のクリエイターは抜群に優秀だと思います。昔から日本人は手先が器用だとか真面目だと言われてきましたが、それはこの業界でもいえることだと思いますね。最近も映画『ホッタラケの島~遥と魔法の鏡~』(2009)というフルCGアニメーション映画がありますが、その作品の制作人数とCGのクオリティを同様のハリウッド作品と比較すると、はるかに仕事の効率が良いことが分かります。この効率の良さを考えると、中国やインドに外注するより良かったのではないかと思いました。もちろん、日本のクリエイターが根性で頑張った部分もあるとは思いますが、それにしてもやっぱり"凄いな"って感心してしまうレベルのクオリティなんですよね。単純にCGのクオリティだけを素直に比較すれば、ハリウッド作品の方が少し高いですが、日本が3カ月で作り上げたところを、ハリウッドでは大体2年間かけて制作していますし、制作に関わる人数も予算も日本の10倍近くあるんです。そういう部分まで考えると、トータル的な作品制作規模は1000倍くらい違うのではないかと思います。そういった日本の制作環境を知らずに『やっぱりPixarのCGは凄いよな』と言われたら困ってしまいますよ」
――そこは日本にいると、やはりマーケット規模の違いが悔しいですね。
杉山「そうですね。だから、映像作品を制作するときは最初から世界マーケットを視野に入れてビジネスプランを立てる必要があると思います。既にそういう時代なんですよ」
――本当にそうですね。でも、クリエイター達のマインドセット(心持ち)はそのようになってきているんですか?
杉山「いや、放っておくとそうはならないですよね。だからこそ、我々は大学を作り、最初の2年間英語ばかりを集中的に学ばせるカリキュラムを組んでいるんです」
次回は、デジタルハリウッドの人材教育概念などについて紹介していく。
撮影:石井健