民主党政権に変わったことの影響については「起業家支援を積極的に推進する政策を打ち出しているので、期待はしています。ただ、法令改正が増えると思うので、それに対応するのが大変ですね。もっともそれは業務ソフト会社の宿命なので、きちんとやります。"間に合わない"は許されないですから」(岡本氏) |
--2008年4月に社長に就任されてから1年半が経過されました。2009年度(2008年10月 -2009年9月)は岡本社長自身がはじめて1年間フルで経営にあたられた年だったわけですが、自己採点するとしたら何点くらいでしょうか。
65点くらいですかね(笑) 景気がきびしいとはいえ、業務ソフト市場をもう少し拡げることができたのではないか、と反省しています。
業務ソフト市場は、現在、二極化していると言われています。低価格を売りにする製品と、弥生のように安心感とブランド力を売りにする製品 - 我々は今回、一部の製品で値下げを図りましたが、それでも他社のように、3,000円 - 4,000円台の製品の開発に手を付ける気はありませんし、また、それをすべきではないとも思っています。これは個人的な感想ですが、価格だけで業務ソフトを選ぶお客様は少ないのではないでしょうか。
むしろ、我々に足りなかったのは価格面の努力よりも「業務ソフトを使ってみたいんだけど、難しそうだし、面倒くさそうだし…」と迷っているお客様の背中を、もう一押しできるだけの力です。弥生はマーケットリーダーである以上、そういったお客様に対し、「業務ソフトは難しくない、自計化、青色申告をしたほうが有利です」といったメッセージをもっと伝えなければならない。「難しそうだから使わない」という選択をお客様にさせてしまっているのなら、それはメーカー側の責任です。弥生の製品を使う/使わないはおいておいて、まずはお客様に業務ソフトの良さを知ってもらうこと - 具体的には起業家支援のためのイベントなどを、地方自治体や会計士の方々と協力して積極的に開催していきたい。たとえば、10月から横浜ベンチャーポート(横浜市経済観光局)主催の「社長1年生のためのお金にまつわる講座 初級編」という全12回のセミナーを企画の段階から協力させてもらっています。今後はこういった取り組みを積極的に推進していきます。
--岡本社長の言う"お客様"とは、中小企業、個人事業主、起業家ということでしたが、当面はそのターゲット層は変わらないということでしょうか。中堅企業市場についてはどう見ていらっしゃいますか。
とりあえず現状では、中堅企業市場は見ていません。やはり中堅企業のお客様となると、どうしてもカスタマイズを必要とされる部分が多くなります。我々はあくまでパッケージベンダであり、カスタマイゼーションまで手を広げるのは現在のビジネスモデルにそぐわない。逆に、中小企業や個人事業主、起業家は、毎年新規ユーザが生まれるマーケットです。これらの方々の業務を支援していくことこそが、我々の社会的義務だと思っています。
2009年度は業務ソフト市場自体が縮小傾向にありましたが、弥生が打ち出した方向性 - 中小企業、個人事業主、起業家を積極的に支援していくという方向性は間違っていなかったと確信しています。2010年度はこの方向性をさら進化させ、「愚直な実践」をテーマに、製品/サービス/市場拡大に向けた努力をしていくつもりです。
ひとつ、嬉しい話をさせていただくと、弥生のお客様は廃業率が低いとするデータがあります。これは自計化をきちんと進めていく、つまり数字を明確に見るようにすると、自然と良い方向に経営が向かっていくということの表れだと思っています。業務ソフトを使うことで、我々のお客様が良い経営状態になり、それが日本経済の発展に貢献することにつながる - そういう流れを作っていきたいですね。
インタビューを終えて - 強くにじみ出るマーケットリーダとしての責任感
昨年から続く景気後退の影響は、弥生をはじめとする業務ソフト市場にも大きな影響を与えた。弥生 10 シリーズでは「やよいの青色申告」やネットワーク版の「弥生会計」「弥生販売」などの大幅値下げに踏み切ったが、それは不況下での価格競争に参戦するのではなく、「お客様が感じている業務ソフトへの障壁を、すこしでも低くしたい」(岡本社長)という思いからだという。
岡本社長はインタビュー中、何度も「マーケットリーダーとしての義務」という言葉を使った。市場縮退の流れを景気のせいにするのは簡単だが、業務ソフトのパッケージベンダとして、市場拡大のためにどれだけのことをやってきたのか、と振り返るとき、いくつもの反省点が上げられるという。
岡本社長は就任以来、弥生の顧客は誰なのか、ということを常に最初に上げてきた。そして2009年度、同社が中小企業、個人事業主、起業家の"インフラ"となることをはっきりと内外に公言した。「その方向性はまちがっていない」とする同氏だが、そうであるならば2010年度は少なくとも2009年度を上回る実績が要求される。自身が示した方向性の正しさを証明するためにも、まずは12月4日から発売スタートとなる「弥生 10 シリーズ」をどれだけ市場にアピールできるかが、弥生にとっても岡本氏にとっても重要なターニングポイントとなるだろう。