今年の東京モーターショーは、海外メーカーの展示がほとんどないため、ワールドプレミア(世界初公開)の数も少ない。国産メーカーでもエンジンや技術などのワールドプレミアはあっても、クルマについてはまったくないというメーカーもある。そんな状況のなか三菱はConcept PX-MiEVを登場させた。

この写真を見るとやはり次期アウトランダーを想像してしまう。デザインはまだ進化する段階かもしれないが、将来はハイブリッドカーをラインアップすることは確実だ

Concept PX-MiEV(コンセプト PX-アイミーブ)

ネーミングにMiEVが付けられていることからもわかるように、i-MiEVと同様にモーターを搭載するコンセプトカーだが、じつはハイブリッドシステムを搭載している。「三菱プラグインハイブリッドシステム」と呼ぶものだ。もちろん軽自動車ではなく、全長は4510mm、全幅1830mm、全高1655mm、ホイールベース2630mmという3ナンバーサイズ。このスペックと近い現行車はもちろんアウトランダーだ。三菱は次世代クロスオーバーと表現しているが、デザインは次期アウトランダーの可能性がある。全長やホイールベースは現行車よりやや短いが、これがアウトランダーとして発表されてもまったく違和感がない。最初はガソリン車を発表し、大注目のハイブリッドシステムを後から追加設定するという可能性もある。三菱はMiEVを中核技術と位置付けているため、このハイブリッドシステムは意外に早く登場するかもしれない。それはi-MiEVに使っている電池をPX-MiEVにも使うことで、量産効果によるコストダウンを進められるからだ。このクラスのクロスオーバーとなると、さすがに電池だけでは航続距離が稼げないためにハイブリッドシステムを採用したわけだ。

シンプルかつクリーンなデザインはコンセプトどおりだが、もう少し先進性を感じさせる部分が欲しい。グリーンハウスの小ささはショーモデルだが、次期アウトランダーの基本デザインはこのままなのかも

リヤドアのデザインも現行車を踏襲する上下開き式のようだ。左側後部のフューエルリッドは、搭載する1.6Lエンジン用

シンプルなデザインだが面白味には欠けるか

まずデザインを見てみよう。グリーンハウスがとても小さいことがわかる。いかにもショーモデルという感じの仕上がりだ。三菱は「SOLID(ソリッド)」「SAFETY(セーフティ)」「SIMPLE(シンプル)」がコンセプトだという。新時代のクロスオーバーとして相応しいエクステリアデザインとして仕上げたようだが、市販車はもちろんこのままでは成立しない。ヘッドライトやリヤコンビランプにLED使った意匠などは省電力化のために市販車でも必ず使われるだろうが、フロントの開口部の小ささはショーモデルならではだ。エンジンを搭載するハイブリッドシステムを持つからには冷却用のラジエターや通風が必要不可欠。もっともコンセプトカーだからこうしたデザインに仕上げているわけだが、もう少し先進性と新しい提案があったほうがよかった。市販車では、一目で先進のハイブリッドクロスオーバーカーとわかるようなデザインで登場してもらいたいものだ。インテリアはラウンド形状で、ドライバーを囲うようなデザイン。航空機のコクピットをイメージしたもので、ドライバーの運転への集中力を高めるようにデザインされているという。

注目はなんといっても三菱初のプラグインハイブリッドシステムだ。クロスオーバーを名乗るだけに前後タイヤを駆動する2モータータイプ。プラグインだからEVモードで走ることができ、近距離ならばガソリンエンジンを使う必要はない。10・15モードでのEV走行距離は50km以上と発表されていることからも、買い物の足として使うならEVのままで走行できそうだ。少し足を延ばしてバッテリーの残量がなくなってしまっても安心なのがハイブリッドのメリットだ。1.6L DOHC MIVECガソリンエンジンが発電と駆動力に使われることになる。もちろん走行状態やバッテリーレベルに応じて発電機能のみとなったり駆動力に使うなど、もっともエンジンを高効率に使うようにしているという。この辺はシリーズ式とパラレル式のいい所取りをしているわけで、燃費は10・15モードで50km/L以上という驚異的な数値だ。もっともEV走行で50km走れるわけだから、燃費が大幅に向上することは間違いない。こうしたシステムには、すでに発売されているi-MiEVの技術も応用されているようだ。

EVコンポーネントとエンジンの統合制御によって、最適な走行モードを選択する新開発のMiEV OS(MiEV Operating System)を採用しているという。i-MiEVのシステムにガソリンエンジンの制御も組み合わせたハイブリッド用の新OSになっている。リヤタイヤはモーターのみでの駆動となるため四輪駆動のシステムは、トヨタのエスティマやハリアーなどと同じE-4WD。前後別に駆動制御できるため操縦性にもハイブリッドシステムを生かすことができるわけだ。このコンセプトカーにはユニークなメカニズムも搭載されていて、それが給電モード。家庭用電力として利用できるもので、災害時の緊急用電源として使用することを想定している。これは災害時だけでなくアウトドアでも活躍しそうだ。クロスオーバーだからオートキャンプに行ったときに電源車として使うことができる。すでにトヨタのエスティマハイブリッドは公称AC1500Wの給電機能を標準装備しているが、実際の給電能力はもっと高くAC3000W程度まで使うことが可能だ。こうしたクルマが増えれば、万が一の災害時にいろいろに使えそうだ。

もう少しハイブリッドのシステムを詳しく見ていこう。まずはEVモードだ。このモードでは基本的にFFとなる。EVモードでの最高速度などは公開されていないが、EVのままで高速走行するとバッテリーを急速に使ってしまい効率が悪いので、ある程度の速度域になるとEVモードを解除する可能性がある。これはプリウスなどのハイブリッドカーが60km/hでEVモードを解除するのを見てもわかる。雪道での発進やウエット路面などの滑りやすいところでフロントタイヤがスリップすると自動的にリヤモーターを駆動させて4WDになる。滑りやすい路面でリヤ駆動が頻繁に続いてもエンジンによる発電が可能なので、バッテリー残量がなくなってFFになってしまうことはない。次はシリーズハイブリッドモード。エンジンを発電機のみとして使い、動力はモーター駆動やバッテリーの充電に使われる。パラレルハイブリッドモードでは、高速走行時はエネルギー効率のいいエンジンの動力もがメイン。高速走行時でもスタビリティが必要な場合は、リヤモーターを駆動させて4WDにすることで安定性を向上させるという。高速への合流でフル加速をする場合は、フロントモーターとリヤモーター、エンジンの3つのパワーを使って加速。クロスオーバーらしいトルク感のある加速を味わえそうだ。エネルギー効率を高めるポイントの回生モードは、フロントモーターが担当する。減速時は荷重が前側に移るため、タイヤの接地力が増えるフロント側に発電(回生)させるのがもっとも効率が高く、減速時の車両姿勢も安定させやすい。充電モードではi-MiEVと同じく家庭用のAC100VとAC200Vによる普通充電が可能。AC100Vなら14時間でフル充電が可能で、AC200Vならその半分の7時間でフル充電できる。もちろん急速充電にも対応していて、80%充電ならば30分で充電可能。こうしたスペックはi-MiEVなどのEVとほぼ同様だ。i-MiEVに搭載されていないシステムとしては、充電やエアコンの予約が行える無線充電予約システム機能が新しい。i-MiEVはガソリン車のiをベースにしていたため電装系を共用しており、エアコンによる車室内のプレヒート・プレークールなどが行えないが、こうした面の改良は専用設計ならではのものだ。前述の給電モードでは、リヤラゲッジスペース内のAC100Vコンセントを使い家庭の電気器具を使うことができる。どの程度の給電能力を確保しているかは公表されていないが、起動電流が大きいモーター駆動の家電製品を使うことも考慮して、エスティマハイブリッドと同程度にしているのではないだろうか。

Concept PX-MiEV のもう一つの注目点が駆動システム。三菱はランエボで優れた駆動システムによる走行安定性を実現しているが、Concept PX-MiEVはそこにモーター駆動を加えているのが新しい。三菱はインホイールモーターによる4WDシステムでの操縦安定性能を技術発表しているが、それにつながる技術が搭載されている。フロントモーターとリヤモーターの出力を最適に電子制御するE-4WDシステムがベースになった駆動システムで、もちろんE-AYC、ASC(Active Stability Control)、ABSを統合した車両運動統合制御システムS-AWCを採用している。ランエボのAYCが湿式多板クラッチを使ってリヤタイヤ左右のトルク移動制御を行っているが、E-AYCは差動モーターを使って左右のトルク配分を制御。湿式多板クラッチでは難しい高応答性を、クイックに作動する差動モーターにより緻密な制御を可能にしている。

エクステリアデザインと比べると、インパネやメーター周りのデザインは先進的で魅力的。すべてをタッチパネル化するのは現実的ではないが、実現すれば画期的だ

センターのディスプレイには車利用情報が集中表示される。S-AWCの各タイヤへの駆動力配分もリニアに表示される

パワーウインドーなどのスイッチもタッチパネル化されている

リヤにも同様のディスプレイがレイアウトされている

充電口は右リヤにレイアウトされている。ちょうど給油口とシンメトリーになる

充電口のフタは上に開くのは、充電カプラーに雨などが当たらないようにするためか?

普通充電は右側のコンセントで、左側の大きなものが急速充電用のコネクターだ

ホイールデザインはタービン風で、将来のインホイールモーター装着時の冷却性を考慮したものだろうか

シート生地はアレルゲンを不活性化し、VOCや細菌、悪臭成分を分解する

赤く塗られたこの電気自動車があなたの街を走りまわる日は近い i-MiEV CARGO(アイミーブ カーゴ)

三菱のもう一台のワールドプレミアがi-MiEV CARGO。ネーミングからもわかるように市販(現在は企業向けだが来年には一般にも販売)されているi-MiEVをベースに、荷物を運搬するカーゴに仕立てたモデルだ。すでにJP(日本郵便)はポストの収集業務にEVを使っている。その車両はi-MiEVなどだが、小包などの集配業務にも環境性能に優れるEVを使うとしている。そうなると積載量が限られるi-MiEVでは役不足。そこで専用車が以前から開発されていたが、それがi-MiEV CARGO。すでにi-MiEVの発表のころからこのクルマの存在は明らかになっていたが、ようやく全容を見せたわけだ。

エコを大切にする花屋さんなどで高い需要があるかもしれない。ユニークなスタイリングが魅力的だから、一般でも使いやすい4シーターモデルを企画してもらいたい

リヤビューはかつてのミニカトッポを連想させるデザインだ

デザインはフロント部分をi-MiEVと共用し、リヤにカーゴ部分を架装している。フロントウインドーからルーフはなだらかに立ち上がり、カーゴとはいうもののなかなかスタイリッシュ。ビジネス用だけではなく、個人でも所有したくなるユニークなデザインだ。架装によって車高は260mm高い1860mmになっている。カーゴスペースはかなり大きく、リヤのほぼすべてが荷室に当てられている。もちろん2シーターだ。カーゴスペースにはほとんど突起物がなく、幅は1350mm、奥行1180mm、高さ1100mmという高効率空間に仕上がっている。フロアはフルフラットで荷物の積み降ろしが楽な725mmの高さに設定。気になるのは航続距離だが、i-MiEVからモーターやバッテリーのスペックに変更がないため、航続距離も160kmと変わらない。ボディ形状が変わり前面投影面積は拡大しているはずだが、10・15モードでは大きな影響がないようだ。もちろん高速走行となると抵抗が増えることが予想されるため、i-MiEVよりも航続距離が短くなる可能性がある。