手塚氏はIFRSの特徴として、投資家のニーズに重点を置く財務報告基準であることを一番に挙げた。「投資家とは普通株主であり、普通株主が見るべき情報を、見たい形で報告するのがIFRSの基本的な考え方。その内容としては、投資家の資金が期末時点でいくらで期首からどれだけ増加したのか、投資家の資金がどのように管理・運用されているのかといった内容を見せるべき」と語る。
また、数値の指針が少なく原則主義だと言われるIFRSについては「1997年の会計ビックバン以前は日本も原則主義だった。当時は、日本には概念フレームワークが確立していなかったため、原則主義による判断の幅が大きすぎたきらいがあった。IFRSは概念がはっきりした状態での原則主義に戻る形なので、最初は会計処理の決定に時間がかかりストレスがたまるかもしれないが、原則主義自体を恐れる必要はない」とも語った。
IFRS導入における企業グループ経営の影響としては大きく4点が挙げられた。
会計基準の相違の解消による決算数値の変化は、会計処理方法の変更にともなってほとんどの企業に影響が出るポイントだという。そして、財務諸表の様式等の変更に伴う決算財務報告プロセスの変更は避けられない。
マネジメント・アプローチの導入に伴う業績管理体制の変更も必要になる可能性が高い。また、利益概念・決算数値の変更に伴う業績評価指標の変更も当然起こりうることだ。
この他、グループ経営への影響は全ての企業が遭遇する問題だという。子会社も親会社も同じ取り引きには同一の会計処理を採用する必要がある。会計処理はもちろん、決算期が違う子会社に対しては仮決算を行う等での対応もしなければならない。 「業務プロセスの統合等は現状でも大きな課題。IFRS導入は統一化・一体化・統合化・標準化を推進するためのチャンスだともいえる。実行するのは非常に大変だが、自社の財務プロセスの見直しをして欲しい」と手塚氏は語る。
また、手塚氏は代理店が存在する販売方式での流通在庫を販売済と見なせない可能性や、リース会社が大口契約企業のために専用倉庫を保持した場合の倉庫建設費用や下請け企業が設備投資した場合の費用をリース代金として支払う金額の中に含んでいると判断する可能性等に触れて、「ビジネスに大きなインパクトがあるのか、様々な事例について検討する必要がある。コンサルタントはIFRSの導入がビジネスに影響すると言うが、個々の会社にとって実際にどんな影響があるのかまでは知ることができない。影響の有無や大きさについては、ぜひ皆さんに考えて欲しい」と自社ビジネスを見直しての検討を勧めた。