2008年の大統領選を沸かせた共和党副大統領候補の元アラスカ州知事サラ・ペイリン(Sarah Palin)氏の自叙伝「Going Rogue: An American Life」が11月17日に発売される。ところが出版元である英HarperCollins Publishersでは、電子書籍版の発売を12月末まで延期することを決定し、その理由が大きな話題となっている。
一時期の『ハリー・ポッター』のように、大ヒットが約束された書籍は少なからず存在する。この世界的大ヒット小説ほどではないにしても、大統領選で大きな話題を振りまいたペイリン氏の自叙伝ともなれば、他の書籍と比較しても大きなヒットが見込めるだろう。米Wall Street Journalの9月30日(現地時間)付けの記事によれば、News Corp.傘下の出版社HarperCollinsでは同書のハードカバー版を11月17日に発売する一方で、電子書籍版の提供を12月26日に遅らせることを決定したという。電子書籍とは、米Amazon.comのKindleのような電子ブックリーダー向けの電子コンテンツのことだ。
自叙伝の出版元であるHarperCollinsのブランドの1つHarperでは、定価28.99米ドルで来春までに150万冊を発行する計画だという。だが、HarperCollins CEOのBrian Murray氏は「電子書籍が既存の出版に影響を与えるかどうかを語るには時期尚早」と前置きしつつも、これが「業界のハードカバー本の売上が15%落ち込むなか、クリスマス商戦時期のハードカバー本の売上を伸ばすための戦略」であることを認めている。なお、これは試験的な措置であり、ここでの経験から今後の電子書籍戦略を練るための布石と考えているようだ。実際、Michael Crichton氏の最新ノベル「Pirate Latitudes」はハードカバー版と電子書籍版ともに11月24日の発売であり、ペイリン氏自叙伝のような措置はHarperCollinsにとっても初の試みのようだ。
しかし、同様の事態はほかの出版社でも起きている。例えば9月初旬には米Hachette Book Group傘下のTwelveが発行したエドワード・M・ケネディ(Edward M. Kennedy)氏の自叙伝「True Compass」の電子書籍版の発行を延期するとコメント。同氏はジョン・F・ケネディ元大統領やロバート・F・ケネディ元司法長官の末弟に当たる人物であり、民主党の現役上院議員でもある。その自叙伝は話題性だけで十分だろう。実際、35米ドルの書籍が初版だけで150万部も出ており、現時点でわざわざ電子書籍版を用意する必要がないとの認識のようだ。世界の出版社は既存の書籍販売の落ち込みとともに、どのように電子書籍と向き合うかを試行錯誤し始めている。