本格的な流行を迎えたとされる新型インフルエンザ。ウィルス感染予防のためにマスク姿で電車に乗り込む通勤・通学客も目立ってきた。しかしこのマスク、使う場面や着用方法を誤ると、十分な効果は期待できないという。財団法人労働科学研究所副所長で医師の吉川徹氏に正しいマスクの使い方などを教えてもらった。
マスクをするなら通勤電車や映画館、対面式の接客を受けるとき
熱やくしゃみなどのインフルエンザ様症状のある感染者が他人にウィルスを「うつさない」ためにマスクを着用するのはもちろん「必ず守ってほしいエチケット」(吉川氏)。しかし、「うつらない」ためのマスクの使用では専門家でもその効果について意見が分かれるという。吉川氏は「うつらないために着用する一般用マスクの効果については、まだ十分研究が進んでいないが、マスクにある程度効果があるとしたら」という前提で説明をしてくれた。
インフルエンザの感染には飛沫感染と接触感染の2つの経路があるが、マスクに感染予防効果が期待できるのは飛沫感染。近くの感染者が話をしたり、くしゃみや咳をしたりして飛ぶつばや唾液が鼻の粘膜や口に入るのをマスクで防ぐことができるのという理由だ。ただ、くしゃみや咳は2m以内にしか飛ばないため、周囲2m以内に人がいないようなガランとした建物内や、人通りの少ない道では必要ないとのこと。逆に着用した方がよいのは混みあった電車や映画館など人が"滞留"しているような場面。洋服店など対面式の接客を受ける場面でも飛沫感染を予防する効果が期待できそうだという。
自分に合ったマスクを選ぶのが大事
マスクは大きく分けてプリーツタイプと立体型がある。立体型の方がもれは少ないというデータもあるそうだが、「大事なのは自分に合うマスクを選ぶこと」(吉川氏)。ふだん使い慣れない人は、呼吸がしやすいかどうか、耳が痛くないかなど、いくつか試した上で自分にあったものを選ぶのがいい。サイズや形が合うかどうかも重要。特に大きすぎるマスクでは顔とマスク隙間から「もれ」が多くなり、効果が期待できないという。「小さめ」「ふつう」「大きめ」などサイズがある商品もあるのでチェックしてみるのもいいかもしれない。
飛沫感染から医療従事者を守るための微粒子用の高性能マスク「N95マスク」についてはその"予防効果"を期待して購入する一般の人も多いようだが、吉川氏は「もともと医療従事者がトレーニングを受けた上で使用するもの。間違ったつけ方では隙間が大きくなりN95でも予防効果はない。逆に、着用により苦しくなり有害になることもある」と注意を促している。
「鼻だしマスク」「ポケットからマスク」は避けて
さて、実際にマスクを装着するときにはどんな点に気を付けるべきなのだろう? 吉川氏によると一番重要なのは「鼻とあごをしっかりマスクのなかに入れること」。マスクと顔の間にすき間があるかどうかは、マスクを上から軽く抑えてフッと息を吹いてみるとよく分かるそうだ。また、マスクをつけたり外したりするときにマスク面をなるべく触らないようにしよう。感染者や感染が疑われる人にマスクを装着してあげるときには耳の部分のひもを持つようにした方がいい。
吉川氏に「よく見かける間違ったマスク使用の例」を挙げてもらった。
- 鼻を出して口だけを覆う。
- 使用するたびにポケットから同じマスクを出している。
まず、1の「鼻だしマスク」だが、ウィルスは口だけでなく鼻の粘膜からも入ってくるため、これではマスクの効果はほとんどなくなる。また、声が聞きづらいなどの理由でそのときだけマスクをあごにかけて話す人もいるが、当然その時間はマスクをしていないのと同じことになる。2については、マスクはできるだけ1度使用したら新しいものに交換した方がいいとのこと。マスクの表面などにウィルスが付着している可能性があるという。
新型インフルエンザのウィルス感染予防策として注目度急上昇のマスクだが、マスクはあくまでも「うつさない」「うつらない」ための感染予防のひとつにすぎない。外出先から戻った時などこまめに手洗いすることもとても重要だ。また、吉川氏は「睡眠不足などで疲れている人はどうしてもウィルスに感染しやすい。体調管理はこの時期特に重要」と話している。内閣府では現在、政府インターネットテレビで具体的な予防法などについての情報も流している。こうした情報も参考にしてみてはいかがだろう。