マンガでも映像でも、興味あるものを創る
マンガ家、映像作家としてジャンルを選ばずに個性的な作品を生み出し続けるクリエイター・タナカカツキ。彼の創作の秘密に迫った。
2009年初頭には「After Effects」を駆使し、Hi-VISION Blu-rayディスクでの鑑賞を前提とした映像作品『ALTOVISION』をドロップしたタナカ。彼は今どんな作品を生み出そうとしているのだろうか?
「『ALTOVISION』を作った時点では、マンガ表現よりも映像への興味が強かったのですが、最近の興味はまたマンガに向いている感じです。これはまあ、常に変わります。1年間映像に取り組んで、次の1年は紙という場合もありますから」
最新のアプリケーションを駆使して斬新な映像を作るタナカと、『オッス! トン子ちゃん』のようなマンガを描くタナカ。そのクリエイターとしての振り幅の広さは、受け手を驚愕させる。タナカは、映像表現とマンガ表現の違いをこう語った。
「マンガは頭の中に出来ている物をトレースする作業なんです。クリエイトするというよりは、ド作業(笑)。単純な作業なんです。それに対して映像表現は自分の持つイメージを超えてくれるので、それが楽しいですね。例えば『ALTOVISION』では、ハイビジョンの特性のギリギリの部分を攻めるという映像表現なんです。ここまで出来るという部分を突き詰めて、論理的に作る。データを作成、つまり数値を打ち込み、あくまでもPCで描いて動かす。そうすると、自分が想像もしなかった画が生まれる事もあるのです」
まるで技術者のような視点で映像表現を語るタナカ。だが、あくまでもタナカは「マンガを描く事」と「映像を創る」ことは、表現として大きな乖離はないという。
「マンガを描く人は芸術家のような印象をよく持たれますが、実は技術者寄りの側面が強いんですよ。昔のマンガ家はみんな凄い技術者なんです。誰も使っていないハイスペックな技術を、印刷所と組んでアナログの時代から試していた。そんな技術とアイデアの人がマンガ家なんです。『黒墨一色でどこまで細い線が表現できるか』、『オフセット印刷の時に、この線が生きるか死ぬか』とかを考えてやっているのがマンガ家なんです。アナログもデジタルも、だから本当は変わらない。今の時代でいうと、プログラムも好きで画も好きという人がマンガ家。そういう人の受け皿が、最近のマンガの世界にないんです。時代が違えばマンガ家として活躍しているような人が、今は映像やwebデザインの世界にいるのだと思います」
タナカカツキの映像世界
デジタルツールを駆使して最先端の映像表現をするタナカだが、技術に関して、アナログの持つ深みや強みを感じている。
「デジタルより、手作業のほうが難しい。1本の手描きの美しい線を引くことのほうが、よほど大変なんです。ペンの擦れを角度で調整する、インクがこぼれる、紙が荒立つ、こういう部分はアナログのほうが表現豊かですね」
マンガを描く作業に関して、手描きの魅力や醍醐味を語るタナカだが、デジタルツールもそのワークフローには組み込まれているという。