企業はここ数年、J-SOX(日本版SOX法)の施行にあたり、内部統制の強化に追われてきた。今度は、IFRS(国際会計基準)の適用が新たな課題として突きつけられており、これから企業はその導入に向けさまざまな作業を行わなければならない。今回は、アビームコンサルティングでIFRSに関する業務を統括しているIFRS Initiative 統括責任者 執行役員 プリンシパルを務める藤田和弘氏(公認会計士でもある)に、「現在の企業のIFRSへの取り組み状況」や「今、IFRS適用のためにすべきこと」などについて話を聞いた

--今年6月、金融庁がIFRS適用に関する方針を示したが--
藤田氏: 金融庁は6月、2010年3月期からIFRSの任意適用を認め、強制適用は2015年もしくは2016年に開始する見通しであることを発表した。8月、19社の企業、4大監査法人が参加して、IFRSの課題を検討する団体「IFRS導入準備タスクフォース」が今後の活動計画を発表したが、参加企業の中には早期適用を検討している企業も名を連ねている。先陣を切ってIFRSに対応する企業が現われることで、他の企業に波及する効果があるのではないか。

--J-SOX施行時、企業は後ろ向きな姿勢で臨んでいたという印象があるが、IFRSについてはどうか?--
藤田氏: IFRS導入の影響から、「財務諸表の数字が(ネガティブに)変わる」、「業務上さらに負荷がかかる」、「コストがかさむ」、さらに、「基準自体が今後も変化し続けるので様子を見ながら」という声は少なくない。また、ここ数年はJ-SOXへの対応において結果として過剰に対応してしまったと感じている企業も少なからずあると聞く。日本は"ルールに忠実"というお国柄もあって、しっかりと取り組んだ結果、コストをかけ過ぎてしまった企業もあるようだ。IFRS対応についても、売上増加に繋がるなど、具体的なベネフィットが見えづらいので経営層に説明するのは容易でない。結果、優先順位が下がってしまう傾向があるようだ。
しかし、日本の事情とは無関係に世界は動いている。世界各国の主要証券市場を見た場合、IFRS適用のタイミングは日本が最後となる。内部統制報告制度を基準としてきっちり導入したのは、米国、日本、韓国などと限られており、SOX対応で疲弊することなくIFRS対応に取組むことができる国が多数を占めている。

--日本と同様、まだIFRSを適用していない米国はどのような状況にあるのか?--
藤田氏: 米国の動きは予想していたよりスローと言われている。世界最大の証券市場を背景に会計基準の作成もリードしてきたという自負があるだけに、欧州主導のIFRSと覇権争いもあるだろう。その一方で、企業側にはIFRSをうまく使っていこうという気持ちもあるようだ。というのも、IFRSを適用することで、資金調達面のみならず、世界中の拠点のパフォーマンスを単一の基準で可視化出来ることの価値を十分認識しているからだろう。

--IFRSへの取り組みにおけるスケジュール感を教えてほしい--
藤田氏: IFRSでは、報告前年度の財務諸表を比較開示することが求められる。つまり、強制適用が予想されている2015年4月からIFRSの適用を開始する場合、2014年4月から始まる事業年度の財務諸表からIFRSを適用しなければならない。そのためには、2014年3月末時点の貸借対照表がIFRSベースで出来ている必要がある。多数の海外子会社を擁する企業グループであれば、1、2年前倒しでトライアルベースの財務諸表を作成し、本番に備え課題をつぶしておくのも現実的なアプローチと言える。

--2015年から逆算すると、準備期間としてあと4年余りしか時間は残されていないことになる--
藤田氏: IFRSと現行会計基準の差異への対応方針を整理し、連結グループ内企業の会計方針の統一、業務プロセス・システム変更対応、グループ経理や関連業務のマニュアルの統一と整備、各国のグループ拠点への展開などを行わなければならない。さらに、IFRS対応を開示要件の充足に加え、グループ経営管理モデルの見直しやグループ標準の経営管理基盤を構築するとなると、それ相応の時間を要する。つまり、目指すべき姿、ゴールをどこに設定するかによって、この約4年間は短くもあり、長くもなると言える。