英国政府による正式声明(Number10.gov.uk)

フォン・ノイマン氏と並んで、電子計算機の実用化への道を切り開いた存在として認められている英国の数学者アラン・チューリング(Alan Turing)氏。計算機科学の基礎的研究で数々の功績を挙げながらも、同性愛で有罪判決を受けたことから自殺に追い込まれた。そのチューリング氏に対して、ゴードン・ブラウン英首相が55年の時を経て、当時の不当な扱いを謝罪する声明を出した。

チューリング氏は1936年、計算を数学的に議論するために「チューリング・マシン」と呼ばれる思考上の計算機械を提唱した。単純化された計算機モデルだが、論理的な計算を機械で実行できる可能性を示したチューリングマシンは、今日のコンピュータの基本原理と呼べるものだ。また第二次大戦中に暗号解読機関のスタッフとして、ドイツのエニグマ暗号機の理論的解析や暗号通信手段の開発に活躍したことでも知られる。その後も世界初のプログラム内蔵方式電子計算機 を発案するなど、黎明期のコンピュータ科学の前進に貢献した。

しかしながら52年、当時の英国で違法だった同性愛であったのが発覚。有罪判決を受けたことでチューリング氏の人生は一変した。保護観察の下、治療として女性ホルモンを投与され、研究活動も満足に行えない生活が続いた。そして54年に自宅で死亡しているのを発見された。服毒自殺だった。

ブラウン首相は「当時の法律に従った処分だったとしても、彼に対する扱いはまったく不当なものだった」と指摘。「アランは人類への貢献者として認められるのがふさわしい」と述べた上で、英国政府として正式にチューリング氏に謝罪した。声明の全文は、英国首相官邸の公式サイト「Number10.gov.uk」で公開されている。

チューリング氏については長い間、同性愛者と科学者の双方から名誉回復が求められていた。ただしコンピュータ科学分野においては、ACM (Association for Computing Machinery)が同分野の貢献者に贈る賞を「チューリング賞」とするなど、チューリング氏の功績は色あせず評価されている。