等身大の若者をさりげなく演じ、やさしく人懐っこい笑顔が魅力の俳優・田中圭。出演最新作『TAJOMARU』では、そんな"らしさ"を完全に封印し、小栗旬演じる主人を冷酷に裏切る家臣役で初の"悪役"に挑戦している。まさに新境地を開いたが、道のりはずいぶん険しかったようだ。悩みが多かったという撮影現場、小栗旬との男同士のいい話など、明るく率直に答えてくれたインタビューをお届けする。最後にはサイン入りグッズのプレゼントも用意した。お見逃しなく。

【STORY】

時は戦乱の世が近づく室町時代の終わり。名門、畠山家の次男・直光(小栗旬)は思慮深く剣術にも秀でていたが、兄の信綱(池内博之)を支えることを使命とし、多くのものは望まない人生を歩んでいた。ある時、唯一の宝ともいえる許婚の阿古姫(柴本幸)を兄に汚されてしまう。そのきっかけを作ったのは八代将軍・足利義政(萩原健一)。金目当ての企みだったが、家臣・桜丸(田中圭)のまさかの裏切りにより、直光の人生は一変する。そして、すべてを捨て大盗賊・多襄丸を名乗ることとなる……。

インタビュー中の彼は、見た目どおりのさわやか好青年。イメージ通りの率直さと明るさが印象的だった

――初めての悪役で初の時代劇ですね。完成した作品を見て、最初にどんな感想を持ちましたか

田中「ほっとしました。撮影がアップしてから桜丸がどうなっているのか不安で、見たくなかったいうのが正直なところだったんです。でも、ちゃんと桜丸として存在していたので、まずは安心しましたね。

僕にとって人生初と言っていいくらいの過酷な現場でした。初めての役柄だし、時代劇だし、殺陣もあったし。撮影中もこれでいいのかなと迷いながら演じていました。桜丸という役は勝手な言い方をしちゃうと、おいしい役。僕がやろうとしている桜丸、監督が思う桜丸がいて、それぞれの人がいろんな桜丸を見たかったんですよ。ある人から『圭、桜丸はこうやれ』と言われて、やってみたら別の人から『なんでああやんだよ、こうやれ』と。

俺の桜丸はこうなんだけどなと思いつつやってたから、俺自身は桜丸をどうしたいんだろうというところに陥っちゃって。この仕事をして初めて、一時期、現場に行きたくないって思うくらい落ち込みました」

田中は最初、直光から受けた愛情や恩を仇で返す桜丸の心情が理解できなかったという

――主演で、先輩でもある小栗さんもアドバイスしてくれたんですか

田中「旬くんは苦しんでいる僕をわかっていたから、何ひとつアドバイスはありませんでした。『もっとお前がやりたいようにやっていいよ』っていうような姿勢でいてくれました。それは言葉じゃなくて、芝居をしているときの目の表情とか、空気感でそれを伝えてくれていて。旬くんは旬くんでちがった視点で檄をくれているという安心感がありましたね」

良き先輩、小栗旬

――人を斬るシーンについてはいかがでしたか。楽しみでしたか?

殺陣についてはキャストやスタッフの他、エキストラにまでアドバイスをもらったという。"愛されキャラ"を証明するエピソードだ

田中「いやーいやぁ(身をよじらせながら)、最初はどうしようっていう感じでしたよ。撮影に入って最初のシーンが、直光(小栗旬)と木刀で稽古しているシーンだったんですけど、あの殺陣でついていけずに何度も転んで、やばいと思いました。それから、エキストラの皆さんの中にも殺陣に達者な方が多かったから、アドバイスを聞いたりしていました。撮影がない時でも剣を借りてずっと握っていたから、それがよかったのかなと思いますね」

――本当に得たものが多い作品だったようですね

田中「そうですね、この作品に出会うと出会わないでは、今後の僕の辿り着く先はちがうんだろうな、と思えるくらいの現場でしたね」

――萩原健一さん演じる将軍に、男色の相手をさせられるという役でもありましたね。濃厚なシーンもあるのかと期待半分、心配半分だったんですが…

田中「実際撮影はしたんですよ。寝床に二人でいて今からキスします、くらいのものを撮ったんです(笑)。撮影は緊張しましたね。相手が萩原さんですし、顔近いし。萩原さんも演じているときは完全に(足利)義政なんで、迫力がありました。

単純に男性とのラブシーンは不思議ですよね。すごい失礼な言い方ですけど、桜丸もいやだったのかなと(笑)。何もわからない子供のころからそういう関係だと、歪むところも出ちゃうのかなと思いました」

「この映画で初めて僕を知ってくれた人には、次の作品で僕をみたときに『あいつ、こんな優男(やさお)だったの?』と思ってほしい」

――池内博之さんがおっしゃっていましたが、共演者同士で朝まで飲み明かすこともあったようですね

田中「みんなお酒が好きな人ばかりなんで」

――圭さんもいける口なんですか

田中「僕、お酒は弱くて。最初のお店でたくさん飲んで記憶をなくすとか、そんなのばっかりでした。僕は、夜はホテルでごろごろしながら『ジュース飲みたいんですけど』っていうタイプで。でも、先輩たちに『行くぞー』と言われると、『はいっ!』って言うしかないですね(笑)。体育会系のノリですね」

――今後挑戦してみたい役柄は何ですか

田中「うーん(ちょっと考えて)。僕、いつもリアルな方に寄せて芝居をしてしまうんですよね。今回もなるべくリアルな桜丸を演じたし、そうやらないと気持ち悪いんですけど……。でも『そんなやつ、いねーよ』っていうのもやってみたいなと思います。たとえば、マンガ原作のドラマのような世界が確立されているものとかだったらやってみたいと思いますね」

――プライベートについてはどうですか。25歳の男性として、これからの人生設計は…

田中「まったくないですね。まったくないです(きっぱりと)! そんなことを言ってらんないんですよ。これからも仕事一本ですね。まだ走り出してもいないんで」

いまはまっていることは、ゴルフと読書。ゴルフは始めたばかりだが、読書は10代のころから。「今日読んでいるのは東野圭吾さんの『パラドックス13』。最近は一日一冊ペースで読んでますよ」

9月12日(土)東京・丸の内ルーブル他全国ロードショー。配給はワーナー・ブラザース映画。

PROFILE

たなか・けい

東京都出身 1984年7月10日生まれ
'00年にデビュー。'03年ドラマ『WATER BOYS』(フジテレビ系)で注目を集め、その後『世界の中心で、愛をさけぶ』、『白夜行』、『魔王』(すべてTBS系)や映画『東京大学物語』など数々の作品に出演する。現在放送中の『官僚たちの夏』(TBS系)では若きキャリア官僚役を好演。今秋は本作に続き『キラー・ヴァージンロード』、『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』が11月下旬に公開予定で、これからの活躍がますます期待される若手俳優の一人

衣装協力 : シェラック プレスルーム
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撮影 : 保坂洋也

(C)2009「TAJOMARU」製作委員会