次に、山本氏は新型インフルエンザに向けたBCP(事業継続計画)の実効性を高めるための対策として、「リダイレクト」、「移動」、「何もしない」という3点を紹介した。いずれも企業単位でどれか1種類を選択するのではなく、部署や業務プロセス単位で洗濯する必要があるという。
リダイレクト
ある拠点の業務を地理的に離れた別の拠点に一時的に移管すること。移管された拠点では、普段とは違う担当者が業務を遂行する。
移動
担当者が普段のオフィスとは別の場所に移動して業務を再開すること。レンタルオフィスに臨時本社を立ち上げたり、自宅勤務を切り替えたりする。
何もしない
一定期間業務が中断することを許容する(中断した業務が普及するまで待つ/意図的に業務を停止する)。
リダイレクトを適用する脅威としては、「火事や地震などの局所的な災害」、「感染拡大のスピードが遅い伝染病」、「テロや戦争」、「ストライキ」などがある。適した業種・業態は、「製造・販売などのサイクルが比較的短く、数多く発生する業種」や「コールセンター」となり、具体的には、「業務プロセスや情報システムの標準化」、「移管先で業務が滞りなく遂行できるよう、必要なアクションを情報システム部門などに依頼」、「業務中断が事前に予測できる場合に移管先と密なコミュニケーションをとった上でのBCP発動の準備」を行う必要がある。同氏によると、十分な計画を行えばコールセンターではうまくいきやすいという。
移動を適用する脅威は、「火事や地震などの局所的な災害」、「感染病」などで、適した業種・業態・職種は、「経営陣」、「特定の担当者に依存する業務」などである。具体的な対策としては、「臨時オフィスとしてセカンダリーオフィスの確保」、「有償のレンタルオフィスサービスの確認」、「一般のホワイト社員を対象とした在宅勤務の準備」を行う必要がある。
何もしないという対策を適用する脅威は「業務中断を引き起こすすべての要因」で、適している業種・業態・職種は「工期が長い製造業・建設業」、「研究開発など、比較的長期間かけて完結する業務」、「リダイレクトするにはコストがかかりすぎる業務や拠点」、「顧客との接触が伴う職種」だ。具体的には、事業が与える影響の度合いを分析し、復旧対策をとらないことの妥当性の検証」、「"何もしない業務"の明確化」を行う必要がある。
同氏はさらに新型インフルエンザに向けたBCP(事業継続計画)の実効性を高めるために、「危機に直面した際にリアルタイムに的確な判断ができる"コマンドセンター"を設立すべき」と説明した。
欧米の企業では、危機の発生に伴って、CMT(Crisis Management Team:危機管理チーム)と呼ばれるバーチャルな組織が結成され、コマンドセンターの役割を担っているという。こうしたコマンドセンターのメンバーは、総務・人事・財務・ITなど関連部著から、危機管理の対応が豊富なマネージャークラスをアサインすることが望ましいそうだ。
日本でもここにきて、新型インフルエンザによる死者が出たり、学校の閉鎖が相次いだりしており、企業が新型インフルエンザのために業務を停止しなければならない日はそう遠くないだろう。そうした事態に陥ってから対策を立てているようでは、後手に回ってしまう。自社の新型インフルエンザ対策が事業継続までをサポートしているか、1度確認してみて損はないだろう。