トレンドマイクロは2日、ウイルスバスターシリーズの新製品となる「ウイルスバスター2010」を発表した。本稿では、ウイルスバスター2010の新機能や発表会での模様などを紹介したい。

図1 ウイルスバスター2010

ウイルスバスター2010の新機能と強化された機能

まずは、ウイルスバスター2010の新機能であるが以下の通りである。

  • Trend Micro Smart Protection Network(SPN)
  • スマートフィードバック

「Trend Micro Smart Protection Network(SPN)」は、Web、E-mail、ファイルのレピュテーション技術を組み合わせ、危険なWebサイト、危険なメールアドレス、危険なファイルを評価(レピュテーション)し、その内容をデータベース化、インターネット(クラウド)を介して共有・利用するというものである。トレンドマイクロによれば、2.5秒に1つのペースで不正プログラムが発生する。

これまでのウイルス定義ファイルだけでは対応しきれない危険に対しても迅速に対応をすることが可能となる。トレンドマイクロでは、これを「クラウド・クライアント型セキュリティ」と呼んでいる。

「スマートフィードバック」では、ウイルスバスター2010がインストールされたPCに、もし、不正プログラムと思われるファイルの情報などが発見された場合に、自動的にトレンドマイクロに送信する機能である。送信された内容はトレンドマイクロのラボで分析し、その結果をWebレピュテーション情報などに迅速に反映する。

これまで、不正プログラムの収集といえば、クローラーやハニーポットなど従来の手法であったが、近年、悪意を持った攻撃者も、虎の子ともいえる不正プログラムを容易には捕られまい、とさらなる工夫をしているとのことである。スマートフィードバックにより、日本を狙ったターゲットアタックなどにも、有効な対策となるとのことだ。この他、強化された機能は、以下の通りである。

  • クイック検索:Windowsフォルダなどの不正プログラムが潜みやすいフォルダをメインに検索を行う。結果、検索にかかる時間を短縮する。トレンドマイクロによれば、2割近い時間改善があったとのことである。
  • 起動時間の改善:約3割の改善が達成された。
  • 個人情報保護機能:キー入力暗号化ツール「GuardedID Standard」の導入により、ブラウザ上で入力したキー入力情報を暗号化する。これまではパスワードフィールドの暗号化のみであったが、新たにIDや住所・氏名などの入力情報の暗号化が可能となる(この機能に関しては、9月中に提供予定)。
  • システムチューナー:毎月1回の予約チューニングが可能となった。また、ソフトウェアの履歴やメッセンジャーの履歴をクリーニングする機能を追加された。
  • 全画面サイレントモード:パソコンがアイドル状態のときにのみパターンアップデートや予約検索を開始する「アイドルタイムスキャン」を導入。

これら以外にも、Trendプロテクト、URL評価、パーソナルファイアウォールなどでも機能強化が図られている。そして、Mac OSへの対応も今回の大きなポイントといえよう(後述)。

ウイルスバスター2010のシステム要件・価格など

まずは「ウイルスバスター2010」(Windows版)が対応するOS(日本語版)は以下の通り。

  • Windows 7 Ultimate、Professional、Home Premium、Starter Kit
  • Windows Vista Ultimate、Business、Home Premium、Home Basic(Service Packなし、およびService Pack 1、2に対応)
  • Windows XP Home Edition、Professional、Media Center Edition 2005、Tablet PC Edition 2005(Service Pack 2および3に対応)

この10月にリリース予定のWindows 7にも対応している。Windows 7、Windows Vistaは、32ビット版と64ビット版にネイティブに対応する。CPUは以下の通り。

  • Windows 7、Windows Vista:Intel Pentium 800MHz(1GHz以上を推奨)
  • Windows XP:Intel Pentium 450MHz(800MHz以上を推奨)

メモリは以下の通り。

  • Windows 7、Windows Vista:512MB以上(1GB以上を推奨)
  • Windows XP:256MB以上(1GB以上を推奨)

また、ハードディスクの空き容量として、500MB以上が必要。

図2 ウイルスバスター2010の起動画面

「ウイルスバスター for Mac」(Mac版)の対応OS(日本語版)は、以下の通り。

  • Mac OS Xバージョン10.4「Tiger」(リリース10.4.11以上)
  • Mac OS Xバージョン10.5「Leopard」(リリース10.5.5以上)

Snow Leopardについては、2009年10月ごろに無償で提供の予定。CPUはPowerPC(G4、G5)またはIntelプロセッサ、メモリは256MB以上、ハードディスクの空き容量として400MBとなる。

図3 ウイルスバスター for Macの現在の状況の画面

ダウンロード版は9月2日から、パッケージ版は9月4日から販売される。

トレンドマイクロのコンシューマ市場への取り組み

発表会で最初に登壇したのは、取締役日本地域担当、大三川彰彦氏である。

図4 取締役日本地域担当、大三川彰彦氏

まず、大三川氏は、ウイルスバスター2009が販売実績で1位であったことを報告した。そして、何よりもインターネットをとりまく脅威の増大について、その危険性を解説した。

図5 サイバー犯罪の増加

この4年間で、25倍という事実を紹介した。これらの脅威に対抗する技術として、Trend Micro Smart Protection Network(SPN)が有効であることを説く。また、啓発活動の報告やゲーム機やスマートフォンなどへの基本技術の水平展開も紹介した。

トレンドマイクロのマーケット戦略

2番目に登壇した、コンシューママーケティンググループ部長、吉田健史氏は、販売実績No.1となった要因を分析し、将来の戦略を発表した。

図6 コンシューママーケティンググループ部長 吉田健史氏

吉田氏は、理由の1つ製品力の中で、日本市場にフィットした製品投入と専業メーカーとしてのノウハウを活かしきったことをあげた。

図7 顧客へのペインポイントを知る

セキュリティソフトに対して求められる要素は何か?顧客が重視する要素を分析することで、どうあるべきかを導き出していた。ウイルスバスターの「安全と軽快」はここから生まれたものともいえよう。そして最後に2010についても、基本方針の変更はなく「安全と軽快」を目指すとのことである。

ウイルスバスター2010の新ライセンス体系

吉田氏は、ウイルスバスター2010の新ライセンス体系についても解説をした。ウイルスバスター2010では、製品1本の購入で、WindowsとMacを自由に組み合わせて、3台までインストール可能となった。もちろんWindowsのみでもかまわない。なお、ウイルスバスター for Macは、インストールCDに同梱されており、OSによって適切なインストーラが起動する。

今回、Mac版に対応したことについて、吉田氏は、MacユーザーのほとんどはWindows PCを所有している。また、Macは安全という神話やMac用のセキュリティソフトの価格の高い状況が、普及を低いものとしており、その現状を打破するためにも、新ライセンス体系を採用したとのことである。

ウイルスバスター2010の製品概要

最後に、コンシューママーケティンググループプロダクトマネージャー、長島理恵氏が登壇した。注目されるウイルスバスター for Macについてデモを行った。

図8 コンシューママーケティンググループプロダクトマネージャー 長島理恵氏

まず、Macを狙った攻撃のいくつかが紹介される。

図9 Macを狙った攻撃

図9は、Twitterのアカウントがハイジャックされ、危険なWebサイトへ誘導されるという事例である。ここで、危険なプログラムのダウンロードが行われるのであるが、ここでWindowsとMacのOSを判断することが行われ、MacにはMac用の不正なプログラムがダウンロードされた。このように、もはやMacといえども安全神話は崩壊している。さらに、フィッシング詐欺などでは、OSの違いは関係ない。実際に、ウイルスバスター for Macで危険なWebサイトをブロックするデモなどが紹介された(図10)。

図10 ウイルスバスター for Macで危険なWebサイトをブロック

ウイルスバスター for Macでおもな機能は、次の通りである。

  • ウイルス・対策
  • フィッシング詐欺対策
  • 有害サイト規制

大きく変化しないことも安心感の1つ

さて、筆者がウイルスバスター2010で好感であったこと1つ紹介したい。それは、"インタフェース"がほとんど変化していないことである。図11は、もっとも利用する機会が多いであろう「現在の状況」の画面である。

図11 ウイルスバスター2010の「現在の状況」の画面

旧版のウイルスバスター2009から、多少のデザインの変更や表示内容の変更はあるが、基本的なメニューの配置などはほとんど変わっていない。ちなみにウイルスバスター2009の「現在の状況」は、図12である。

図12 ウイルスバスター2009の「現在の状況」の画面

ウイルス対策ソフトのような、日々必ず使用しなければいけないソフトウェアは、バージョンアップの度にインタフェースが変わるというのは、ややもすると使いにくい場合もある。

また、ほとんどセキュリティ対策ソフトは、毎年のバージョンアップが一般的である。毎年、毎年使い方を覚え直すというのも、面倒といわざるをえない。特に、初心者にとっては負担も大きいであろう。変わらないインタフェースというと、進化がないかのように感じるかもしれない。しかし、同じ使用感が維持できる点は、ありがたいことではないだろうか。最後にこの点を紹介して、終わりとしたい。