「テトリス効果(Tetris Effect)」という言葉をご存知だろうか。1990年代前半に登場した概念で、パズルゲームの「テトリス」をプレイし続けることで脳が鍛えられ、効率的に運用が行われるようになるという効果のことだ。そして今年9月1日、テトリス効果を提唱した研究者の1人が最新の実験でテトリス効果が脳の効率化だけでなく、個別機能の発達や構造の変化までも生み出す可能性について言及している。
テトリスについてはもう説明はいらないだろう。4つの正方形を集めた7種類のパーツを組み合わせ、ブロックを消す作業を続けるゲームのことだ。原型は1984年当時ソビエト連邦のコンピュータサイエンス研究者だったアレクセイ・パジトノフ氏によって開発され、後に数々の開発者にライセンスが行われることで世界中でさまざまなバージョンのテトリスが広がることとなった。MSNBCによれば、カリフォルニア州立大学アーバイン校に在籍していたRichard Haier氏が1990年台前半にテトリスのプレイで脳の働きが変化し、より少ないブドウ糖の消費で動作していることに着目した。これは後にテトリス効果の名称で呼ばれ、いわゆる「脳トレーニング」といったジャンルのゲームの開発につながっていく。Haier氏は現在、テトリス開発メーカーの1つである米Blue Planet Softwareのコンサルタントとしても活躍しており、テトリスとニューロサイエンスの関係性の研究をさながらライフワークのように続けている。
今回の最新の研究は、このBlue Planet Softwareが米ニューメキシコ州にあるMind Research Network (MRN)に依頼する形で行われた。Haier氏を筆頭に、MRNからはLeonard Leyba氏、Montreal Neurological InstituteからはSherif Karama氏、ニューメキシコ大学からはRex Jung氏が参加している。12~15歳までの少女26人をサンプルとして集め、このうちの15人には毎週90分間のテトリスのプレイを3ヶ月間、残りのグループにはビデオゲームそのもののプレイを3ヶ月間避けてもらう形で続けてもらった。サンプルとして10代の少女を選んだ理由は、脳が発達段階にあって効果が出やすいこと、また同年代の少年よりもビデオゲームに対する経験が少なく、やはり結果がはっきりしやすいという見込みがある。
テトリス効果については、以前にも大脳皮質の厚みが増す傾向があることがわかっているという。Haier氏は今回の実験で、こうした脳の構造上の変化と脳の機能上の変化の相関性について解明しようとした。すると、構造上の変化と機能上の変化の両方が確認できたと同時に、それぞれが違う場所で変化しており、互いに重なっていないという現象を発見した。大脳皮質が厚くなった部分は複雑な思考や感覚情報を司る部位であり、逆にそれ以外の思考や言語中枢などの部分はHaier氏が発見した効率化が進んでいたのだ。Haier氏は「問題解決のために脳細胞が増え、結果としてこの部位では脳を酷使しなくても効率運用が可能になる」と分析している。MRNでも「脳の灰白質の容量が増すことで効率的な運用が可能になる」と結論付けており、テトリスが脳開発に役立つ可能性を指摘する。
なお、今回の論文の一部はBMC Research Notesのサイトで確認できる。興味のある方は一読してほしい。