家庭用ロボットの現状
もちろん、ロボットが進歩していない訳ではない。「ROBO-ONE」に代表される2足歩行ロボットによる格闘大会、それを中心にしたホビーロボットの盛り上がりは、10年前には考えられなかったことだ。この数年でロボット達の動きは格段によくなっており、試合を見ていると、1980年代にヒットしたマンガ「プラレス3四郎」の世界が基本的にはもう実現していることに驚かされる。
2足歩行に限らず、規模の大小こそあれどさまざまなロボット競技大会、いわゆる"ロボコン"が毎週全国どこかしらで開催されており、その全貌は簡単には把握できないぐらいだ。とは言え、今はまだマニアの楽しみに留まっているというのが原状だろうが、ホビーロボットの裾野が少しずつ広がっているのは間違いない。パーツの互換性やOSの整備などが進み、専門知識がなくても使いこなせる製品が出てくれば、かつてのマイコンブームやミニ四駆ブームのように爆発的な広がりを見せることも十分考えられる。
筆者としては、2足歩行ロボットの価格破壊を実現したタカラトミーの「i-SOBOT」が、ロボット界の"ファミコン"になってくれるのではと期待したのだが、最初のモデルはスタンドアロン志向で、ソフトのアップデートなどは考慮されていなかったため、一般ユーザーにとっては一過性のオモチャとして消費されてしまった感があるのが残念だ。
単体で内蔵された行動や会話のパターンがいくら多くても、飽きっぽいユーザーはすぐに見限ってしまう。PCもインターネットにつながってコミュニケーションツールと化したことで初めて一般に広く普及したように、これからのロボットの普及には、やはりインターネット経由でアップデートできる仕組みが必須なのだろう。常に新たなアプリケーションが提供され、ユーザーとのコミュニケーションによってカスタマイズされ、それぞれに個性が生まれてくるような仕掛けも欲しいところだ。
一方、家庭用ロボットというと、昔からのイメージである、家事をこなし、できれば子守りまでしてくれるような"機械のお手伝いさん"への期待も根強い。全自動洗濯機などの家電製品もある意味ロボットだと言えるが、自律移動の機能を備え、誰もがロボットとして納得できる家庭用の実用ロボットと言えるのは、米iROBOTのお掃除ロボット「ルンバ」ぐらいだろうか。イメージ通りの万能家事ロボットは未だ登場していないが、もちろん研究は行われている。東京大学IRT研究機構が開発した生活支援ロボット「AR」は2本の腕で掃除や洗濯をこなし、10年後の実用化を目指しているという。
また、早稲田大学 WABOT-HOUSE 研究所では、家庭用ロボットが活躍できる環境も整備してやる方向での研究も進められている。
しかし、ボディを持たないPC内で完結する仕事ですらあまり自動化が進んでいない現状を考えるに、人工知能の分野でよほど画期的な進歩がない限り、簡単な命令だけであらゆる用事をこなしてくれるようなロボットの実現は遠い未来のことと思える。
そのような状況もあって、いわゆる"パワードスーツ"のような、RT(ロボット・テクノロジー)の応用分野が注目されているのだろう。こうしたシステムでは、言わばロボットの頭脳の部分を人間が担う訳で、自律型ロボットより早期の実用化が望めるだろうからだ。この分野でもっとも洗練されているのが、筑波大学のベンチャー、サイバーダインの「ロボットスーツHAL」だろう。装着者の筋電信号を読み取って動作するため、操縦という意識をせずに、身体の拡張として重作業も楽にこなせる。介護分野からの普及を目指して、すでにレンタル事業も行われており、現在は介助者や足腰の弱った人の使用を想定しているが、ゆくゆくは車椅子のように障害者の手足となる日も来るかも知れない。