まだまだ先行き不透明な経済状況。その一方で、株取引においてはチャンスとも言われ、楽観視していいものか、しばらくは慎重であるべきか、投資家にとって悩ましい時期は当分の間続きそう。こんなときは「原点」に戻って、東証を見学というのはいかがだろうか。

自分の目で日本の証券市場の歩みを見直してみるのも、チッカー(テレビでよく見かける電光掲示板)の流れを間近に眺めるのも、資産運用や株式投資のきっかけ(?)になるかもしれないし、何よりも入場無料というのが嬉しい。また、子どもたち向けのセミナーが盛況なほどで、子どもに「社会」や「会社」の仕組みを楽しく学んでもらえるはず。家族サービスにも活用できる見学施設を、周辺のスポットとともに紹介しよう。

誕生131年目を迎えた東証

東京証券取引所の前身、東京株式取引所が設立されたのは1878(明治11)年のこと。実業界の有力者であった渋沢栄一らの出願により、大蔵卿大隈重信が免許を与え、営業が開始された。その後、日清・日露戦争で活況を呈し、第1次世界大戦、関東大震災、世界恐慌、第2次世界大戦と厳しい時代を迎え、戦後の混乱から復活へと市場は歩んできた。

見学者の入口である西玄関を入ると、エントランスの右手に「東証プラザ証券史料ホール」があり、ここでは昔の証券や写真などを見ながら、証券取引などの歴史を学ぶことができる。もちろん、投資家にとっては興味深い展示ばかりだが、投資を知らない人も、東証や株取引から日本と世界の歴史を眺めることができて、おもしろいのではないだろうか。

メディアによく出るこちら側は東玄関。見学者入口は建物の反対側にある

左に見えるのが西玄関で、荷物チェックを受けた後、入館証を受け取る

証券史料ホールもぜひゆっくりと見学したいもの。さまざまな発見がある

兜町界隈の歴史についても展示されている

改めて知る学ぶマーケットのこと

エントランスから2階に上がり、見学施設の東証アローズへ向かうと、途中に東証プラザがある。ここには「マーケット・エクスペリエンス・コーナー」が設置されていて人気を呼んでいる。仮想の証券市場で、仮想の所持金を元手に、架空の株式売買を行うというもので、1日5回、無料で体験することが可能だ。混み合ってなければその場で参加することができるが、事前に予約しておいた方が確実。実施時刻等、詳細については公式サイトを参照していただきたい。

東証プラザには、このほかにも経済や株について学べる端末やビデオルームなどが用意されている。端末のいくつかは10代向けの経済教室となっているが、株初心者などの大人にとっても、経済全体や株式会社などについて改めて学ぶにはちょうどいい内容。少し簡単に思えても、大切なポイントがクリアになるはずだ。

マーケット・エクスペリエンス・コーナーでの体験時間は約30分

ティーンズ向けの端末ではあるが、大人でも利用価値は大きい。特に経済が苦手という人には最適だ

パネルの下に受話器があり、それを聞きながら操作すると、さまざまな解説を聞くことができる

チッカーを見ながら廊下をぐるりとひとまわり。下では記者会見が開かれていることも

チッカーの動きに世界の今を見る

東証アローズの象徴ともいえるのが、電光掲示板上でくるくると銘柄がまわるチッカー。マーケットセンターを見下ろす廊下には、解説用の受話器があるので、説明を聞きながら施設について知ることができる。

チッカーは取り引きが盛んになると、より速くまわるようになっている。関係者や投資家は株価もさることながら、その速度が気になるところだろう。初めて訪ねる人にとっては、日本、そして世界の情勢が反映されているチッカーの動きは、東証アローズ見学の醍醐味といえるに違いない。

証券マンたちがひしめき合っていた立会場は、1999(平成11)年にその歴史に幕を閉じ、現在は東証の担当者が株の取り引きを監視している。ぐるっと廊下を巡れば、メディアセンターの様子もうかがえる。中2階のオープン・プラットホームからは、チッカーや大型スクリーンをより近くで見ることができる。

向こう側のブースはメディアセンターとなっていて、実際の放送なども行われている

刻々と移り変わる日本、世界の経済状況がチッカーには映し出されている

1980年代の立会場の様子。写真提供:株式会社東京証券取引所グループ

周辺もちょっと散策してみては

東証のある兜町。日本の「ウォールストリート」、あるいは、「シティ」と称される金融の中心地は、なぜ「兜町」なのか? 東証のすぐ近くには兜神社があり、境内には兜岩が置かれている。その由来は、奥州征伐へ向かう源義家(みなもとのよしいえ 源頼朝の祖先)が、岩に兜をかけて戦勝を祈願したためとも、平将門の首を打った藤原秀郷(ふじわらのひでさと)が、この地で兜だけ土に埋めて供養したためともいわれ、定まっていない。

いずれにしても、江戸時代以前の兜町は沼地であり、江戸時代のはじめ、埋立てによって現在の界隈は誕生したという。歴史についても、東証のサイトに記述があるので、詳しくはそちらをご覧いただきたい。

東証の周辺には、銀行発祥の地や、松尾芭蕉の弟子で芭門十哲のひとり其角(きかく)の住居跡など、渋い見どころも点在しているので、東証見学の後は、歴史散策も楽しんでみてはいかがだろうか。

東証の西玄関のすぐ近くにある兜神社内の兜岩

銀行発祥の地の碑。西玄関近くのみずほ銀行の入口横にはめ込まれている

レトロなバーで夜をしめくくる

東証と兜町界隈をゆっくり楽しんだ後は、雰囲気たっぷりのレトロなバーでしめくくるのがおすすめだ。茅場町駅からすぐの運河沿いにある建物は、1927年に建てられたという町の遺産と呼ぶべき風情を漂わせている。店の名前は「WALL STREET」。

ギネスなどビールの樽生、ウイスキーをはじめ、アルコールの充実ぶりは完璧。女性に人気の月ごとのオリジナルカクテルも用意されている。さらに、イタリアンなどの料理メニューは本格的で、ただのバーではないことを物語っている。ピザは3、4人前、パスタ類も2人前くらいのボリュームはあり、それを考えれば料金もかなりリーズナブルだ。

趣のあるWALL STREETの外観。写真提供:株式会社ソイエスコーポレーション

落ち着いた店内。客の大半は地元の証券マンとのこと。写真提供:株式会社ソイエスコーポレーション