既報の通り、ソニーは新しいCMOSセンサー「Exmor R」を搭載したコンパクトデジタルカメラ「サイバーショット DSC-WX1」「同DSC-TX1」の2製品を発表し、会見を開いた。会見で同社コンスーマープロダクツ&デバイスグループ パーソナル イメージング&サウンド事業本部 イメージング第2事業部 事業部長の佐藤裕之氏は、「サイバーショットで"新写真文化"を創造する。"カメラはソニー"をキーワードに高画質革命を実現していく」と意気込む。

新機種DSC-WX1(左)とDSC-TX1

新機種となるDSC-WX1とDSC-TX1は、裏面照射型構造と呼ばれる新しい技術を使ったCMOSセンサー「Exmor R」を搭載する。従来のCMOSセンサーでは、各画素が並ぶ基板上には、上部からオンチップレンズ、カラーフィルター、配線層、受光面、フォトダイオードが並ぶ形だった。オンチップレンズから入った光が受光面を通してダイオードに達し、それを電圧値として出力する、という流れになっていた。その電圧の入出力を行うトランジスタなどの配線層は、製造工程上、オンチップレンズとフォトダイオードの間に配置されていた。

左が従来のCMOSセンサー、右が裏面照射型構造

この結果、感度が2倍程度向上して、より暗いシーンで明るく撮影できるようになった

レンズを通った光は、この配線にぶつかって跳ね返ったり屈折して曲がったりしてしまうため、配線層の小型化が必要だったが、それに限界があり、それにもかかわらず高画素化によって一つ一つのフォトダイオードが小さくなってきたため、反射や屈折が「無視できないレベル」(同社)になってきたという。

こんな状況で撮影したテスト画像

新機種のDSC-WX1で撮影

こちらは旧機種での撮影。写真では分かりにくいが実際に見ると一目瞭然

それに対してソニーでは、配線層とフォトダイオードを裏返すことで、配線に邪魔されずに受光面に光が到達するようにした。これが裏面照射型構造だ。単純に裏返すだけでなく、裏面側にある基板を薄型化し、光がきちんとフォトダイオードに届くようにしたことで、フォトダイオードに到達する光量が大幅に改善した。その結果、SN比では従来比+8dBを実現。感度が2倍、ノイズは1/2になったという。

佐藤氏はデジカメユーザーの要望として「暗所撮影」を挙げ、「フラッシュなしでも雰囲気まる撮り」をキーワードにして暗いシーンでもきれいに撮れるように開発したという。

フラッシュを使うと、一部が白トビをしてしまったり、光の届かない背景が暗く沈んでしまうが、フラッシュなしで撮影することで、そういった問題を解消できる

Exmor RやBIONZによって、ノイズも押さえて撮影できる

その結果、このExmor Rの搭載に加え、DSC-WX1ではワイド端の開放F値がF2.4という明るいレンズを搭載。画像処理エンジンのBIONZでは色ノイズの低減、高速処理による「手持ち夜景モード」の搭載などによって、暗所でもノイズの少ない画質を実現した。

CMOSセンサーは、入射した光を順次処理するために1枚の撮影に時間差が生じ、動体が歪んで撮影される動体歪みが問題視される。これに対して新モデルでは、メカニカルシャッターによって入射光を制御することで歪みを押さえている。さらにCMOSセンサーの高速読み出しの特徴を生かしたフル画素で10コマ/秒という高速連写も実現。こうした高速な動作を可能にするために、一般的なカメラとは異なるメカニカルシャッターを採用しているそうだ。

この高速連写を生かし、秒6コマの連写を行って画像を重ね合わせることで、ランダムノイズを低減させる手持ち夜景モードを搭載。Exmor Rの低ノイズを加えると、従来比1/4のノイズになるそうで、一見してノイズの少ない画像を生成できる。撮影後に数秒の処理時間が必要となるため、今後はこの処理の高速化が課題だという。

高速連写でノイズを低減させる手持ち夜景モード

「裏面照射(型構造のCMOSセンサーを搭載した)2機種で高画質の基準を一新したい」とソニーマーケティング・コンスーマーAVマーケティング部門デジタルイメージングマーケティング部統括部長の下野裕氏。

下野氏によれば、09年のデジカメ出荷台数は前年比10%減の867万台を予測。市場は縮小しているが、それでも03-05年までよりは拡大している。また、97年1月にはデジカメの新規購入者が90%以上だったが、09年1月には8割が買い替え・買い増しになっている。拡大期には高機能化・高性能化で市場が伸びたが、現在は、潜在的にユーザーが思っている不満点を解消し、買い替え・買い増しを促すカメラを出すことが「市場活性化の鍵になる」と下野氏は指摘する。その中で暗所撮影時の画質という不満点の解消を狙ったのが今回のカメラだ。

デジカメの出荷台数。買い換え需要による伸びが一巡し、今後は不満点の解消が重要だとする

新規購入がほとんどだった10年前に比べ、現在は買い換え・買い増し需要が多い

さらに、「従来にない新しい写真の楽しみ方を提案する」(同)ことを目指し、秒10コマの高速連写を生かし、カメラを縦横に振るだけでパノラマ写真を撮影し、カメラ内で生成できる「スイングパノラマ」機能を搭載。「これまでのパノラマは、PCでの加工が必要で一般ユーザーのためのものではなかった」(同)が、これを解消して新たな楽しみ方を提案する。

スイングパノラマは、上下動を補正して短冊形の画像を撮る

それをわずか1秒でカメラが合成してくれる

同様に、自動でパン・チルト・ズームを行って撮影してくれる「Party-shot IPT-DS1」を用意することで、家族写真に撮影者のパパがいない、三脚でいつも同じ構図、カメラ目線で身構えているといったありがちな写真だけでなく、家族全員の自然な表情を収められるという提案も行う。

これまでの撮影の課題

こうした課題を解消するのがParty-shot IPT-DS1

パン・チルト、撮影頻度などが設定できる

撮影中は、顔検出で顔を探して、構図を決めて撮影する。頻繁にParty-shotが動くので、はじめは気になるかもしれないが、そのうち慣れそうだ

佐藤氏が「今回は王道である撮影機能の向上を中心にした」というように、コンパクトデジカメが苦手としていた暗所撮影に強いカメラを作り、撮影を楽しむパノラマ機能などを、既存のDSC-HX1とは異なるコンパクトサイズに凝縮したことが今回のポイントだ。佐藤氏によればソニーのシェアは21%。「本格的な撮影機能によって、"カメラはソニー"という認識をしてもらえるようなブランドにしたい」と意気込んでいる。

DSC-WX1の特徴

DSC-WX1のカットモデル

DSC-WX1

DSC-TX1の特徴

DSC-TX1のカットモデル

両モデルに搭載されているExmor R

DSC-TX1。新たに「なぞる」動きに対応し、UIが改善されている

なお、ソニーはセンサーの外販も行っているが、Exmor Rの外販に関しては現時点で公表できないという。また、デジタル一眼レフカメラ向けには、センサーサイズが大きく、配線層の影響が小さいため、今のところは従来のCMOSセンサーを利用するそうだ。

佐藤裕之氏

下野裕氏

「新写真文化」の創造を目指し、基本性能の向上と新しい楽しみ方の提案などを行う

キーメッセージは「美しさ、一新」