イオンエンジンでの協業の意義
こうしたプロダクトの拡大について近藤氏は、「たまたま今回の提携相手がAerojetだっただけで、他の製品については、また別の強い相手と組む可能性もある」と示唆する。
その今回の提携相手であるAerojetとの協業内容であるイオンエンジンだが、主に姿勢制御用に機体の微調整を行うために用いられるエンジンであり、「イオンスラスタ」と呼ばれる場合もある。
イオンエンジンの特長は、1番に化学推進薬を用いない点。そのため、従来型のエンジンに比べて燃費が良い。ただし、イオンを用いているため大きな瞬発力は出せず、長時間一定の推力を出す、といった運用に向いている。
今回の協業にはNECと宇宙航空研究開発機構(JAXA)が共同で開発したマイクロ波放電式イオンエンジン「μ10」の技術がベースとなる。μ10をベースに「スラスタのコントロールインタフェースで、衛星との接続部分である"ITCU"の汎用化を行うことが今回のポイント」(NEC 航空宇宙・防衛事業本部の宇宙事業開発戦略室 室長である高橋実氏)であり、インタフェースとしてワールドワイドで使われるグローバルスタンダードを狙うとするほか、「事業化にあたり、μ10とくらべ推力を20%増強する計画となっている」(同)としている。
具体的には、NECとAerojetが共同で受注活動を行うが、米国はAerojetが、日本はNECが受注分担を行い、NASAなど米国の顧客から出てきたスペック要求をNECにフィードバック、NECが対応インタフェースを開発するという手順となる。ただし、双方で機器の開発分担を行う予定としており、「主なところはNECが開発するが、リレー部分などはAerojetが担当することとなる」(同)としており、「JAXAとNECとの間での開発成果の産業転換に関しては現在協議している段階」(同)としているが、産業化の観点から見て、推し進めたいところとしている。
マイクロ波式のイオンエンジンだが、原理はXeガスを推進薬としプラズマを発生、3枚のカーボンハイブリッドのグリッド("スクリーングリッド""アクセルグリッド""ディセルグリッド")を電位差を活用して通すことで、その反作用を推力として利用するというもの。
従来の「直流放電式イオンエンジン」の場合、電極が大気暴露すると、性能が劣化するという欠点があったほか、グリッドがモリブデンで、イオンが衝突すると、グリッドに空いている孔が拡大したり、表面にダメージを受けたり、という信頼性の問題があったが、「カーボンハイブリッドへの素材変更と、無電極化により、長寿命化を達成できた」(同)とする。
すでに"はやぶさ"にμ10が搭載され、技術的に評価がほぼ完了しているものと考えることができる。2003年に打ち上げられた"はやぶさ"にはXe推進剤が当初60kg搭載されており、往路の軌道変更で約20kgを消費、4台のイオンエンジンの積算稼働時間は2万5,000時間に達したという。その後、一度Xeをコールドガスジェットとして噴射(約10kg消費)した後、地球への帰還として、2007年と2009年に2回の軌道変更をイオンエンジンにて行っており、積算稼働時間は3万5,000時間(発生加速量1,900m/s)を超えたという。「現在、地球到達までに残り200m/sの加速ノルマがあるが、推進剤の残量は25kg程度有り、復路運用には十分」(JAXA 月惑星探査プログラムグループ 教授 國中均氏)という。