高級コンパクトデジタルカメラ「GR DIGITAL III」

既報の通り、27日にリコーは高級コンパクトデジタルカメラ「GR DIGITAL III」を発表。GR DIGITALシリーズ3代目となるGR DIGITAL IIIでは、ユーザーからのより高画質、より高速動作といった要望に応えており、同社のパーソナルマルチメディアカンパニー プレジデント 湯浅一弘氏は、「従来より画質は格段によくなった。自信作」と胸を張る。

GR DIGITALは、フィルムカメラとして定評のあったGRのデジタル版として、2005年10月に発売された。当時減少傾向にあったジャンルである高級コンパクトデジカメとして人気を博し、高い画質と操作性などでプロでも利用者が多い。その後GR DIGITAL IIが2007年11月に発売。そして今回、2年弱という時を経て、3代目が登場することになる。

パーソナルマルチメディアカンパニー プレジデント 湯浅一弘氏

GR DIGITAL IIIでは、新たに開発された「GRレンズ 28mm F1.9」という広角・大口径のレンズを搭載している。レンズ構成は6群8枚で、特殊低分散ガラスレンズを3枚使ったことで色収差を抑えて高コントラストを実現。従来とレンズ構成を見直してコマ収差を抑え、2面2枚の高精度非球面レンズで歪曲収差を「ほとんど目立たないレベル」(同社)まで落とした。

新しいGRレンズのスペック

GRレンズのMTF曲線

マルチコートをそれぞれの面で最適化し、反射率をできる限り落とすことで逆光性能も向上させたほか、マクロ時に前部のレンズを150ミクロン後退させる新方式を採用し、マクロ撮影での湾曲を抑制させているそうだ。

マルチコートによる逆光性能の向上、専用方式の採用によるマクロ撮影時の画質向上を実現

右が新方式でのマクロ撮影の結果。画像では分かりにくいが、下方向がよりくっきり描写されている

湯浅氏は、英語で明るいレンズのことを「Fast Lens」と呼ぶことを示し、「FAST GR LENS」という表現がふさわしいと主張。大口径化したことでより速いシャッタースピードで撮影でき、同じシャッタースピードなら低ISO感度で撮れることから、より高画質の写真が撮れると指摘する。

撮像素子は1/1.7型有効1,000万画素CCDを採用。コンパクトデジカメではより高画素の撮像素子を採用したモデルも増えているが、湯浅氏は「高画素は高画質化ではない」と断言。高画素化が続く現状に疑問を呈するとともに、今回のサイズのCCDを「迷わず選んだ」という。

撮像素子は、微細化プロセス技術と集光技術をさらに進化させ、従来と同じサイズのセルに盛り込むことで感度性能を約1段分向上させた。CCDの画像をデジタル化するアナログフロントエンドチップで高ISO感度撮影時に発生する色つき現象も抑制したことで、従来機と比べて高ISO感度時になるほど画質に差が現れるという。

新開発の画像処理エンジン「GR エンジン III」は、12bitで得られた画像を8bitで出力するが、そのビット圧縮前の段階でノイズ処理することで、従来よりきめ細かなノイズ処理を実現。そのほか、粒状感を残したノイズ処理の適用、色の濃さに応じて色抑圧を変更することで色ノイズを低減し、解像感を落とさず、彩度を残し、塗り絵のような画像にならないノイズ処理を可能にしたという。これらの結果、ISO100時で3dB、ISO1600時で8dBのS/N比が改善したそうだ。

GR DIGITAL IIIと従来モデルの低輝度部の画質特性比較

ノイズ比較。これも画像では分かりにくいが、明らかにノイズは減っているうえ、解像感や彩度は維持されている

湯浅氏は、デジタル一眼レフカメラが普及し、高画質化の要望が高まっていることに対し、「一眼レフカメラでなくてはいい写真が撮れない」と思っている一般ユーザーが「非常に多い」と指摘し、この思い込みを解消するような高画質のコンパクトデジカメを提供するという意気込みを語る。「GR DIGITAL IIIは、こうした思いを今まで以上に込めた商品」(湯浅氏)だという。

GR DIGITAL IIIの高画質を支える3つの新技術

GR DIGITAL III開発のコンセプト

画質に加えて要望が高かった高速性能に対しては、アルゴリズムを改良し、特に暗所撮影時ではAF補助光なしでもAFの合焦速度が向上しているという。被写体にピントを合わせておいてAF速度を向上させる「プレAF」、シャッターボタン一気押し時にあらかじめ指定した撮影距離で撮影する「フルプレス スナップ」も撮影の高速化に一役買っている。また、RAW撮影時にノイズリダクションOFFで5枚、ONで4枚までの連続撮影が可能になったほか、ブラケット撮影も可能になった。

操作性に関しては、モードダイヤルを回すだけで自分の設定を簡単に呼び出せる「マイセッティング」を3種類に増やしたほか、マイセッティングに名前をつけ保管・呼び出しができる「マイセッティングBOX」機能を新設。6種類まで名前をつけ、そのうちの3種類を簡単に割り当てられるようにした。さらに、よく使う機能を呼び出せるFn(ファンクション)ボタンは、従来の1つから2つに増やし、より素早く機能を呼び出せるようにした。

従来のデザインを踏襲し、コンパクトながらF1.9という明るいレンズを搭載した

背面。液晶が3.0型に大型化された

左が従来モデル、右がGR DIGITAL III。液晶が大型化されるとともに、わずかにボタン配置が変更されている

こちらは初代GR DIGITALとGR DIGITAL II。デザインは従来通りで、湯浅氏は「買い替えても奥さんに気づかれない」と笑う

レンズが変わったため、従来のアダプターやコンバージョンレンズは装着できない。新たに専用のアダプターとワイコンがリリースされるが、テレコンは用意されない

ソフトケース。右は新たに用意された速写用ケース

初代GR DIGITALとGR DIGITAL IIのスペック

画質を追求したCMOSセンサー搭載の「CX1」。CX1からはマルチパターン・オートホワイトバランスと画素出力補間アルゴリズムという2つの新技術が継承された

背面の液晶は広視野角で野外視認性が高く、汚れにも強いという3.0型92万ドットのVGA液晶となり、色再現範囲もsRGB比100%を実現している。高解像度を生かし、1画面に最大81枚の画像を表示する「マイクロサムネイル」機能も搭載している。本体サイズがほとんど変わらない中で液晶が大型化したため、ボタン配置を見直すことで従来の操作性を維持したという。

そのほか、画素出力補間アルゴリズムを採用したことにより、最大で+1EV相当のダイナミックレンジ拡大を実現。複数の光源が混在していても最適なホワイトバランスに設定するマルチパターン・オートホワイトバランス機能も搭載。表現力を向上させるため、色別に色相や彩度が設定できる画質パラメータを強化し、シャッタースピード優先AEも搭載した。

湯浅氏によれば、急激な経済後退の中で、高級コンパクトデジカメ市場は「当初考えていたよりも影響を受けた」(同)が、国内市場ではそれほど大きなインパクトはなかったという。低価格デジカメが売れているのは事実だが、高級コンパクトデジカメがほしい層がおり、大きなダメージにはなっていないとの認識を示す。

発表会には写真家の細江英公氏も登場。GR DIGITALを使って細江氏は、仏・パリのロダン美術館でロダンの彫刻を撮影。この写真集を刊行予定だが、コンパクトで自由なアングルで撮れるGR DIGITALだからこそ撮れた写真を「美術館側も喜んでくれた」と細江氏

また、昨今はカメラや写真に興味を持つ人が「すごく増えていると実感している」(同)状況で、高級コンパクトデジカメを選択してもらえるチャンスが広がっているという。また、これまでケータイカメラで写真に親しんだ人が、「いきなりデジタル一眼レフカメラにいってしまう現象が起きている」(同)。これは、いい写真にはデジタル一眼レフが必要という「一眼レフ信仰」(同)であり、ライトなユーザーにとって一眼レフはオーバースペックとなり得るため、「本当にいい道具はGRだと確信している」と湯浅氏。高画質を実現しながら、コンパクトなサイズと洗練されたデザインで道具としての所有欲も満たし、使い勝手も追求したGR DIGITAL III。"好きなカメラ"を買いたいというユーザーに支持されるはずだと湯浅氏は自信を見せている。