ワイヤレスジャパン2009会場で行われた講演の中から、「アップルとグーグル、モバイルプラットフォーム戦略の違いと将来展望」と題した講演の内容をお届けする。講演者は、クリエイシオン代表取締役、インプレスR&D インターネットメディア総合研究所客員研究員などを務める高木利弘氏だ。
Appleが開発し、人気を集めるスマートフォン「iPhone」。それに対し、Googleを中心に開発された携帯電話用OS「Android」。いずれもこれまでの携帯電話にはない機能を備えたことで注目が集まっている。
高木氏は、まずそれぞれの歴史を振り返る。iPhoneは、1976年4月に設立されたApple Computer(当時)の製品だ。Appleは、84年にGUIを備えたMacintoshをリリース。その当時、Steve Jobs氏が送り出した初代Macintoshは、「経営的には不振だった」(高木氏)ため、Jobs氏は「85年にAppleを追い出された」。Jobs氏はその後NeXTを設立、NeXT Stepを送り出した。NeXTを使って現在のワールドワイドウェブ(WWW)を作り上げたのがTim Berners-Lee氏だ。「JobsがNeXTを作ったからこそ、WWWが開発されたと言えなくもない」。
そして再び、Appleに戻ったJobs氏は、UNIXベースのNeXT StepをもとにMac OS Xを発売する。その後07年には、Mac OS XをベースにしたiPhone OSを搭載した初代iPhoneが登場することになる。
「Jobsは、iPhoneがWindows、Mac OS Xに続く第3のメジャー・コンピュータ・プラットフォームと表現している」と高木氏。高木氏によれば、iPhone OSの強みは、「スケーラブルであること」だという。iPhoneにはデスクトップ向けのMac OS X、サーバー向けの同Serverが存在するのに対し、携帯OSとして最大シェアのSymbian OSは携帯のみ、日本の携帯は「ケータイインターネットの特殊な世界」であり、スケーラブルではなく、「世界では通用しない」と話す。
iPhoneはフルブラウザのSafariブラウザを搭載し、PC向けのインターネットと携帯向けのインターネットを融合させる存在であり、「インターネットのリソースを最大限に活用できる世界初のデバイス」だという。
そのiPhoneは、Jobs氏が発表時に話したように、音楽プレイヤーのiPod、電話、インターネットデバイスの3つをひとつにした端末だ。ポイントとなるのはアプリ配信のApp Storeや液晶のマルチタッチだ。さらにインテリジェントキーボードの存在によって、「一度(iPhoneのキーボードに)慣れると、(Androidなど端末の操作)わずらわしく感じる」と高木氏。
高木氏が取材したというプライスウォーターハウスクーパース コンサルタント(旧ベリングポイント)は、iPhoneを社内で導入し、その結果としてソフトバンクモバイルのホワイトプランによる無料の内線電話で26%のコストダウンを実現した。加えて、マニュアルなしで使える操作性によってサポートが容易になったほか、Microsoft Exchangeとの直接接続、リモートワイプなどのセキュリティ、素早いメール返信によるビジネス生産性の向上などの効果が得られたという。高木氏は「企業利用でアドバンテージがある」と指摘する。
iPhoneの大きな特徴となるApp Storeは、世界88の国と地域に向けてアプリ販売できることがメリットで、PocketGuitar、Super Monkey Ballなどの世界的ヒットアプリが登場している。これらのアプリの中には3カ月で数千万円を稼いだ例もあるという。開設1年で15億ダウンロードを達成したApp Storeは、登録アプリ数も約65,000にも達し、iPhone人気の大きな原動力にもなっている。アプリ開発者は、iPhoneデベロッパプログラムへ登録する必要がある。登録費として10,800円(スタンダードプログラム)が必要で、Mac OS X 10.5以上に対応したiPhone SDKなどをダウンロードして開発することになる。
続いてAndroidについて話があった。Androidはもともと03年に設立された米Android社が開発していたもので、これをGoogleが05年に買収した。
Androidの開発はAndy Rubin氏の手によるものだが、彼は89年にAppleに入社し、Appleの技術者が設立したGeneral Magicに移り、その後独立してスマートフォン「Sidekick」を開発した経歴を持つ。AndroidとiPhoneは「ルーツは一緒」というわけだ。
Androidはオープンソースとしてマッシュアップや組み込み機器への搭載も可能で、Googleが中心になって設立されたOHA(Open Handset Alliance)が開発を行っている。OHAは50社が参加している。
国内ではNTTドコモから搭載端末「HT-03A」がでたばかりで、Google検索やマップ、Gmailなど、Googleサービスに特化した機能が特徴となっている。「Googleのモバイルサービスを使いたい人にはいいが、iPhone(と同じような端末を)期待している人は"なんじゃこれ"と感じる」と高木氏は話す。
App Storeと同様に、Androidにもアプリ配信プラットフォーム「Androidマーケット」があり、こちらは21カ国32キャリアに対して配信できる。GPSで得られた場所や時間、バッテリーレベルに応じて、マナーモードや無線LANのオンオフなどが設定できる「Locale」といったアプリは、「Androidが(内部のデバイスなどに)難でもアクセスできるから」実現できたもので、これがAndroidの大きな特徴となる。
この両者を比較すると、いくつか違いが出てくる。たとえばクラウドサービスのMobileMeとGoogleモバイルサービスでは、年間9,800円と無料という違いに加え、MobileMe側にはiDiskやWebページ、iPhone探索、リモートワイプといった機能がある。
App StoreとAndroidマーケットの違いとしては、App StoreではiPhone/iPod touchに加え、PCからもアプリにアクセスできるが、Androidは携帯からしかアクセスできないなどがあるが、大きな点は「アプリの事前審査があるかないか」だ。Androidはアプリ登録後すぐに公開される。
iPhoneはスマートフォン市場、すでに世界シェアで2位、または3位という調査結果が出ており、「数年中にスマートフォンシェアナンバー1になる」ほどの勢いで伸びているという。世界最大のコンテンツ配信サービスであるiTunes Storeと連携できるのも強みで、「今後おそらく電子書籍もやるだろう」。ただし、Apple独自の環境であることから高木氏は 「1社で世界征服できるのか」、「オープン化の流れをどう取り組むか」、「(MySpaceなどの)CGMでのコンテンツ配信をどう使っていくか」といった課題を指摘する。
Androidでは、Googleのクラウド戦略の一環であり、無料モデル、CGMのYouTube、組み込み機器へ搭載できることによるユビキタス環境の実現といったメリットがある。しかし、アライアンスを組むことで端末が「iPhoneに比べて折衷的で世界を制覇できるか」、「膨大な投資が必要で、広告モデル以外のモデルの構築ができるか」といった課題があるという。
モバイルマーケット自体は、オープンモバイル時代が到来し、「日本の携帯電話はガラパゴスで、iPhoneとAndroidは黒船」だという。このオープンモバイル革命の中で、日本にとっては「大きなビジネスチャンス」だ。マンガやアニメといったコンテンツ、組み込み機器といった強みが日本にはあり、iPhoneとAndroidの登場で、ソフト・ハードの両面からチャンスがある。そう高木氏は強調している。