朝9時から営業していて、午前中から大盛況の居酒屋がある。そんな噂を聞いて訪れてみたのが東京・赤羽にある「鯉とうなぎのまるます家」。到着したのは平日の朝10時。すでに店内はほぼ満席だ。ここからは、同店の歴史と人気の秘密を紹介していこう。

平日朝10時の様子。1階(約40席)のカウンター席は常連でほぼ満席!

泥酔客はおらず、安心して呑める雰囲気

JR赤羽駅から徒歩5分弱。「鯉とうなぎのまるます家」は駅前商店街の一角にある。どこか懐かしい雰囲気のただよう2階建ての一軒家だ。10時頃、店頭では職人が活けのスッポンやコイを豪快にさばいていている。その隣ではウナギを焼いている。

JR赤羽駅からすぐの商店街に立地する

店頭には、鯉をさばく職人の姿が

店舗は1階部分がカウンターとテーブル席、2階部分がグループや団体客向けのお座敷席。コの字型のカウンター席が並ぶ1階部分は、開店直後から常連客で埋まり、閉店までほぼ満席状態。皆、楽しそうにビールやチューハイ、日本酒を楽しんでいる。午前中の時点ではほとんどが男性客で、平均年齢は40~50歳といったところ。泥酔客や悪酔いしているお客はおらず、ただただ楽しそう。女性2人組の取材班に対してもはやし立てるでもなく、撮影に協力的。マナーを守って飲んでいる姿が印象的だった。

2階席(約35席)。座敷なので、ファミリー客の食事利用も多い

「まるます家」の創業は1950年(昭和25年)。現在の店主で2代目の石渡勝利さんの父親が、奥さんと一緒に開業したという。先代は大の酒好きで、「朝から飲めたらいいよね」と、朝から酒を提供する店を出そうと決意。当時は戦後間もない頃で、巷にはメチルアルコールなど粗悪な酒が出回っていたが、先代は「ちゃんとした酒を」とかつて埼玉・川口にあったサッポロビールの工場で製造されたビールと焼酎を仕入れていたという。

食べ物類は開業当初は少なかったものの、お客のリクエストを聞いて徐々に増えていった。現在では100種類以上。メニューの柱となっているうなぎと鯉、スッポンの料理も、開業当初からあったものではない。うなぎを始めたのは、1960年(昭和35年)頃のこと。先代の兄が浜名湖で漁師をしていたことがきっかけだった。

ピーク時には約1トンの鯉をさばく

鯉料理を提供しだしたのは1967年(昭和42年)頃。こちらもお客の要望があってのことで、多いときは1日1トンほどもさばいていたのだとか。そのほか、豊富に揃える刺身は、昔築地で働いている人たちが仕事帰りによく飲みにきていて、それが縁で仕入れることになったのだという。

「元々が大衆食堂で、いまも『大衆酒場・食堂』で登録している」という2代目の石渡さん。「土地・建物も自分たちの所有なので、家賃を払う必要がない。その分価格に還元して、少しでも懐にやさしい価格になるよう配慮しています」。低価格にして、その分何度も通ってもらいたいというのが石渡さんの考え方だ。

うなぎは国産と良質な台湾産を使いわけ

うなぎは1階の窓口でテイクアウト販売も行っている

石渡さんが店主になってからは、高いものをいかに安く出すかに苦心してきたとのこと。「粗悪な材料を使って価格を抑えるのでは意味がないですから」。お客に満足してもらうため、食材の品質には妥協がない。うなぎは、銀座の専門店も仕入れているという卸しから上質のものを。夏は国産を、国産の質が落ちるとされる冬場には台湾産をといった具合に巧みに使い分けている。

うなぎは、赤羽岩淵にある仕込み用工場でさばいて蒸し上げておく。これを店に運び、注文ごとに焼き上げて素早く提供する。店舗ではテイクアウトも行っており、さらに赤羽駅前にもテイクアウト専門店がある。「蒲焼」(800円)という格安価格で、肝吸い付きの「うな重」も1,000円から。アルコールを注文せずに、うなぎだけを楽しんでいくお客も少なくない。特に2階の座敷では、家族連れで食堂として利用している人が多い。

やわらかくて脂もほどよい「蒲焼」(800円)。注文ごとに焼いてあり、白焼きでも注文可能

その他のうなぎメニューとしては、「うざく」(450円)や「かぶと焼」(300円)などもあり、ワンコイン以下でうなぎが楽しめる。店でさばいている鯉は、「鯉のあらい」(400円)や「鯉こく」(350円)など、他の店では珍しくなった味が揃う。同店のもう一つの看板メニューであるすっぽん料理も、仕入れを工夫して店でさばくことで、「すっぽん鍋」を1人前800円という驚愕の安さで提供している。

一人前の「すっぽん鍋」(750円)。写真奥は「チューハイ」(350円)と、1リットル入り! の「ジャンボチューハイ」(950円)

さばきたてで鮮度抜群の「鯉のあらい」(400円)は、コリコリした食感が楽しい。臭みはなく、さっぱりした旨みがある