富士フイルムは22日、3D画像の撮影に対応したカメラなど、コンパクトデジタルカメラの新製品を発表。報道関係者向けの説明会を開催した。同社の古森重隆代表取締役社長兼CEOは、独自技術による差別化商品によって「時代をリードするようなものを作り続ける」と意気込む。
裸眼で3Dを楽しめるシステム
新製品の大きな目玉となるのは、3D画像の撮影が可能で、裸眼での3D画像の確認ができる"世界初"というコンパクトデジカメ「FinePix REAL 3D W1」、裸眼で3D画像を楽しめるデジタルフォトフレーム「FinePix REAL 3D V1」、3D画像をプリントできる「FUJIFILM 3Dプリント」からなる「FUJIFILM FinePix REAL 3D System」。
今回の3Dシステムは、昨秋にドイツで開催された写真機器関連の展示会「photokina 2008」で初めて公開されたもの。2つのレンズと2つのCCDによって、少しずつずれた画像を同時に撮影。その画像を合成して3D対応液晶に表示することで立体視を実現する。photokinaの時点ですでに技術的には完成していたが、さらに小型化や機能向上を図り、製品化にこぎ着けたという。
W1の液晶には同社独自の「ライトディレクションコントロールシステム」を採用。左右の目に液晶のバックライトを交互に照射し、それぞれの目に異なる画像を見せることで立体感が得られる仕組みだ。
それに加えW1では2つのレンズ・CCDを生かし、1回のシャッターでテレとワイド、高感度と低感度、2つの色調といった異なる画像の撮影にも対応。「2Dの世界でも新しい写真が楽しめる」(同社 電子映像事業部 副事業部長 三ツ木秀之氏)ようにして、3D以外の楽しみ方も提案する。
V1では、液晶の縦方向にスリットを入れ、左右の目に別々の画像を届ける「パララックスバリアシステム」を採用する。これはほかの機器にも利用されている3Dシステムだが、画面の大型化が容易などという理由で採用された。ただ、スリットのバリアが入るため、横方向の解像度が半分になるという弊害があり、それに対してライトディレクションコントロールシステムは、解像度が犠牲にならず、より高解像の画像を表示できるメリットがある。こちらの方式は、同社によれば「大型化が技術的に難しい」とのことで、技術的な目途がつけば大型画面にも導入していきたい考え。
3Dプリントでは、右目用と左目用で異なる写真を分離して並べたプリントの上に、波形のレンチキュラーシートを一体化させることで立体視を実現。こちらも左右の目に届く写真の解像度は半分になるが、プリントでも3Dが体感できる。
現在、ハリウッド映画での3D対応が進み、3Dで楽しめる映画館も国内外で増えている。家電メーカーもテレビやBlu-rayレコーダーなどでの3D対応を強化しつつあるところで、今後3Dが大きく普及すると見られている。そうした中で同社では、撮影から閲覧、プリントまでトータルで3Dを楽しめる環境を構築することで3Dの普及を後押ししたい考え。三ツ木氏は「市場を切り開く画期的な製品」と胸を張り、「2009年は3D映像元年」になると自信をみせた。5年後には3D対応カメラが全世界で全体の10%近い出荷台数になるとの予測だ。
見たままを写し撮る薄型10倍ズーム機
もう1つの目玉が、新しい撮像素子「スーパーCCDハニカムEXR」を搭載するデジカメとしては第2弾となる「FinePix F70EXR」で、シーンに応じて高解像度、高感度・低ノイズ、広ダイナミックレンジを切り替えて撮影することができる。人間の目のメカニズムに近づけたという仕組みによって、シーンを問わず美しい画像が撮影できることを狙った。
F70EXRでは、最薄部で22.7mmというスリムボディに、27~270mm(35mm判換算時)の光学10倍ズームフジノンレンズを搭載。さらに、背景をぼかす「ぼかしコントロール」機能を初めて搭載した。ピントを変えて連続撮影した画像を合成することで背景をぼかし、コンパクトデジカメでは難しかった一眼レフのようなボケ味を実現した。
また、これまで以上に暗所でのノイズを低減する「連写重ね撮り」も新機能。4枚の画像を連続撮影し、それぞれの画像にランダムで現れるカラー/輝度ノイズのない部分を合成することで、ISO1600でも低ノイズの画像を実現している。
独自技術で「元気」なデジカメ事業へ
3DやEXRといった新機能は、人間の目で見たままをデジカメで記録することを追求してきた富士フイルムの独自技術だ。人間の目の特性に近づけたEXRはもとより、人間は2つの目で見て、頭の中で立体感を得るというメカニズムに近づくため、2つのCCD、2つのレンズで3D画像を表現したREAL 3D Systemは「デジカメの究極の形の1つ」(三ツ木氏)であり、「見たままの映像を残したいという思いが、2Dの壁を越える商品を完成させた」(同)とする。
発表会場では、日本ビクターが発売する3D対応業務用液晶テレビを使い、偏光メガネを使うことでテレビでも3D画像が楽しめるデモを実施。今回はあらかじめW1で撮影した画像をPC側で処理し、テレビで表示できるようにしたという。3D対応テレビでも、同様の処理ができるようになれば、液晶テレビのみでW1の画像を3D画像として表示できるそうだ。この処理自体は難しくなく、負荷もかからないとのことで、同社ではさまざまなメーカーと協力していきたい考えだ。
「デジカメに新たなイノベーションを起こすことで新たな写真文化の発展に寄与していきたい」と古森代表取締役社長兼CEO。世界不況のあおりで停滞を余儀なくされた同社デジカメ事業の立て直しで成果を出しつつある電子映像事業部 樋口武事業部長は、「魅力ある製品を、機能を落とさずに安く売る。それをきちんとやって頑張っていく。富士フイルムのデジカメ事業はますます元気」と強調し、今後もデジカメ事業に注力していく意向を示している。