2010年以降に向けた米国のHPCの動き

DARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:国防高等研究計画局)は米国国防総省(Department of Defense:DoD)の先端技術開発を担当する部署である。DARPAは国防に役立つ各種の研究に費用を提供しており、スーパーコンピュータ(スパコン)関係では、High Productivity Computer Systems(HPCS)を推進してきた。

HPCSではIBMとCrayが最終フェーズに残り、IBMが「PERCS」、Crayが「Cascades」と呼ぶシステムを開発している。しかし、このHPCSプロジェクトは2010年に完了予定であり、今回取り上げる「Ubiquitous High Performance Computing(UHPC)」プロジェクトはそれに続く先端コンピュータ開発プロジェクトとなると思われる。

DARPAは2009年6月に、このUHPCプロジェクトに関する「Request for Information(RFI)」を公表した。この27ページの資料には、プロジェクトのターゲットと実施体制、スケジュールなどの案が書かれている。今回のRFIの目的は、実施体制とスケジュールの案に関して広くコメントを求めるためのものであり、技術的な提案を求めるものではないが、DARPAがどのような開発を行おうとしているかの一端が分かり、興味深い資料である。

"UHPC RFI"は、次世代の先端的な国防能力を築くためには、現状の延長のコンピュータでは不十分で、革命的なコンピュータ能力の向上が必要であると述べている。そして、この要求を満たすためには、大幅に性能/電力を改善した超並列システムで、かつ、アプリケーションの開発が容易で、各種の故障や障害に耐えて処理を続ける能力を備えたコンピュータが必要という。そして、このコンピュータは、大規模なスパコンだけでなく、組み込み型としても使えることを意図している。そのため、消費電力が少なく、かつ、空冷のシステムであることが要求されている。

そのため、このプロジェクトで開発すべき主要な技術ターゲットとして、以下のようなことが挙げられている。

  • 演算あたりの消費エネルギーを低減し、電力効率を最大化するテクノロジ
  • システムの詳細な構造を理解しないでも、性能の高い超並列プログラムが作れるテクノロジ
  • 1000~10億並列の資源を効率よく管理し、実行オーバヘッドを最小化するテクノロジ
  • 故障や攻撃に耐えて、システム全体として、高い信頼性と安全性を実現するアプローチ