新世代PSIの重要性 - 生産計画の見直しは四半期ごとではなく毎月行うべき

作りすぎの問題に対する解決策として従来製造業で取り組まれてきたのがPSI(Production, Sales, Inventory: 製販在庫計画調整)と呼ばれる取り組みだ。生産、販売、在庫を調整し、需給バランスの最適化を目指す取り組みとなる。販売状況を踏まえて生産調整を行い、在庫量を睨みながら生産計画を柔軟に変更していけば作りすぎの問題は解決できそうなものだが、まだ不足の要素があるという。岡田氏は「PSIには予算/利益の概念が含まれていないことが問題だ」と語る。

岡田氏が挙げた、日本企業が抱える製販在における課題点。なかでもグローバル化が進む中にありながら、海外の支社/支店のPSIが雑なままであることが大きな問題につながるという

最近の製造業界では、地域別の"Local PSI"から、全世界を統合した"Global PSI"への拡張がトレンドになっているというが、「計画の精度が向上するどころか、むしろ状況は年々悪化しているようにも見える」(岡田氏)という。これは、海外での販売状況の詳細かつ正確なデータを日本の本社が把握し切れていない点にも問題があるようだ。海外の販売代理店からの発注情報をFAXで受け、それをExcelに入力して集計し、これを元に生産計画を見直す…というサイクルでは集計に数週間かかることも珍しくはなく、生産計画の見直しもせいぜい四半期ごとというのが実情だ。代理店が送ってくる発注情報についても、単なる希望的観測に過ぎないものも混じっており、その精度はまちまちである。不正確さを含む情報に基づく四半期計画では、変化の速い市場環境に追随するのは不可能だろう。岡田氏は、「生産計画は四半期ごとではなく、毎月見直すくらいのペースに変わらないと」という。そのために有用なITによる支援としてオラクルが提供するのが、Oracle Demantraだ。

Oracle Demantraが果たす役割

Demantraは、Oracleによる買収発表の時点では、需要予測ソフトウェアとして予測精度の高さをアピールしていたのだが、岡田氏は「需要予測に基づく生産計画に特化したコラボレーションツール」だと大胆に位置づけ直している。これは、生産計画を検討する会議の場で、Demantraによる需要予測の数値を叩き台により精緻な計画を練ることが可能になる、ということを意味している。

Demantraでも、かつては単体での予測精度の高さを追求する方向で開発が行われていたそうだが、この方針は現在では放棄されており、今は予測のブレを小さくする方向で改良を進め、予測の的中率は80 - 90%程度でよい、という方針に変わっているそうだ。

絶対的な精度の高さを追求すると、条件がよいときの的中率は見事なものになるが、一方で予測が外れたときには大きくずれてしまう結果になる。ズレがあまりに大きいと、要は「想定外の状況」が生じてしまうわけで、その対応は困難になる。逆に、予測の絶対精度を追求するのではなく、ズレを一定に留める方向になった現在では、"ぴったり当たる"率は相対的に低下したものの、常におおむね一定の差の範囲に収まるようになっているという。単純にソフトウェアの予測値をそのまま使うのであればともかく、企業内の熟練したスタッフが知恵を絞って需要予測を行うことを前提とすれば、ソフトウェアの出力はスタッフが検討を行う際の基礎データを提供できれば充分だという発想に基づいた設計だ。ブレが大きく、極端にずれる可能性もある予測ではプロの道具としては使いにくいものだが、ズレがおおむね一定範囲に収まるのであれば、プロはそのズレも想定に含めた上で決断を下すことができる、というわけだ。なお、Demantraの需要予測はベイズ関数を応用した複数の予測計算式を組み合わせ、さらにそれぞれの計算式の結果に独自の重み付けを加味して算出するもので、精度はかなり高いものだという。

ズレを小さくするために絶対精度を低めに抑えたといっても、あくまでも相対的な話である。米国では、主要な映画会社がDemantraの予測に基づいてDVDの世界各国ごとの出荷量を判断しており、大きな成果を挙げているという。また、ユーザー企業から1年分の販売数の実データの提供を受け、前半半年分のデータをDemantraに入力して後半半年分の需要予測を行い、実データと比較する、というデモを行うこともあるそうだが、このデモを行うとその予測の精度の高さがすぐに理解されるともいう。

経営視点からの製造計画を

岡田氏は、従来のPSIを越える「次世代PSI」として"S&OP(Sales & Operations Planning)"を提唱する。実は、サプライチェーンカウンシル日本支部 S&OPコンソーシアムが今年3月末付けで「S&OP ホワイトペーパー」を発表しているが、岡田氏はS&OPコンソーシアムのメンバーとしてこのホワイトペーパーの執筆にも参加しているのだ。

S&OPが従来のPSIと異なるのは、OP(Operations)という言葉に利益の概念が含まれている点だという。岡田氏は「生産現場や販売現場はそれぞれの論理に基づいて主張するが、最終的な結果に対する責任は現場ではなく経営者が負うことになるのだから、計画の段階から軽々視点で利益を重視した計画がなされるべきだ」という。この発想に基づいて新しいコンセプトとして定着が期待されるのがS&OPというわけだ。

Demantraでは、精度の高い需要予測に基づいて緻密な生産計画を立案することが可能になる。その結果、調達や物流など、さまざまな要素を付き合わせ、きちんと利益が確保できる計画の立案が実現できることになるわけだ。大量在庫の問題は、販売店などでの値崩れなど、さまざまな副次的な問題も引き起こすことで製造業の利益を圧迫している。岡田氏は「欠品を良しとするということよりも、むしろ"利益が上がらないこと"が問題であり、この状況を改善するためにDemantraが役立つ」という。