一方でIFRSの強制適用については、井上氏が「2012年に強制適用の時期を判断する予定であり、まだ明確な部分まで決まっていない状況です」と語るように、不明瞭な部分が多い状況だ。これは、2011年6月に向かってIFRS自体の改定作業が行われていること、そして米国が2011年に強制適用の最終決定を控えていることが影響している。こうした背景から、対象企業は段階的な適用か一斉適用かを改めて検討・決定、適用時期については2012年の判断が決定すれば、2015年もしくは2016年から3年間程度で開始、といった内容に留まっている。
現行IFRSと日本基準の差異に関しては、修正が必要な6項目として「のれんの償却」「退職給付会計における数理計算上の差異の費用処理」「研究開発費の支出時費用処理」「投資不動産の時価評価および固定資産の再評価」「会計方針の変更に伴う財務諸表の遡及修正」「少数株主損益の会計処理」が挙げられている。井上氏はこれに対し「現行IFRSとUS GAAPが収束した次世代IFRSは別として、現行IFRSとの差異についてはここ数年の日本基準を満たしていれば心配要りません。ただし、これはあくまでも会計処理の話であり、日々の業務やシステムにおいては現行IFRSでもかなりの影響を受けます」と語る。
IFRS適用年度の決定については、現行IFRSを適用する先行パターンと、先行企業の事例が蓄積された次世代IFRSから適用する後発パターンが考えられるという。井上氏は「中途半端な時期を設定すると、導入準備中やグループ展開の途中で次世代IFRSが適用された場合に手戻りのリスクが発生するので注意が必要です。ただし、後発パターンでも2011年6月まで何もしないと手遅れになるため、今から時間をかけて対応準備が求められます」とアドバイスする。
資産・負債を中心とした仕組みが必要
続いて櫻田氏が、グループ経営革新の取り組みに関しての解説を行った。櫻田氏は「企業を取り巻く環境が厳しさを増す中で、直面する大きな課題としては構造改革による抜本的なコスト削減、限られた資金での成長投資、そして不安定な環境下での資金調達という3つが挙げられます」と語る。
そこでグループ経営に求められるのが「キャッシュ生成能力を重視した意思決定」「投資効率の高いビジネス基盤の構築」「財務体質の改善による資本コストの引き下げ」「グループ全体視点での迅速な意思決定」だ。より具体的な取り組みとしては「企業価値変動をマネジメントする仕組みの導入」「ガバナンスの強化」「経営情報の標準化と統合」が重要になるという。
その中でも、企業価値変動をマネジメントする仕組みの導入において「現在は基本的にPL(損益計算書)ですべてを見ています。しかし、IFRSではまずBS(貸借対照表)を事業部や管理対象別に把握し、資産・負債が企業活動によってどのように変化していくのかを捉えて将来予測に結びつけます」と語る櫻田氏。
これは今までとまったく異なる考え方であり、今後はあくまでも資産・負債を中心に包括損益を把握していくようなマネジメントの仕組みが必要だと強調する。こうした上で、資産・負債の金額だけでは難しい部分をROICやEVA、EPなどの効率性指標で補足していくわけだ。
櫻田氏は最後に「最も重要なのは自社に対するIFRSの影響を考えた上で、残された時間をどのように使うか明確にし、戦略的な投資を行うことです」とコメントし、講演を締めくくった。