デルの教育向け新提案、
次世代型教室「Connected Class Room」

日本を含むアジア・太平洋地域において、重点領域としているのが、教育分野への取り組みだ。

中国、インド、オーストラリア、台湾、韓国においても、教育分野のIT化は、各国政府が掲げる重点課題でもあるからだ。

その分野に対して、デルが提案しているのが次世代型教室とする「Connected Class Room」である。

これは、教員と児童、生徒がコンテンツに簡単にアクセスでき、世界中の知識に触れることができる、従来のクラスルームの枠にとらわれない教育環境を実現するものだ。

先頃、Connected Class Roomの実践例として、オーストラリアのニューサウスウェールズ州の150人の生徒を対象にした授業が行われた。講師を務めたのは、米デルのマイケル・デル会長兼CEO。「IT化の可能性」をテーマに、特別授業が行われた。それぞれのPCの画面に映し出されたデル会長の講義を聞き、それが終わると、複数の教室の生徒から質問が行われた。この時、デル会長は米テキサス州のオースティンにいた。まさに世界をつなげた双方向型のリアルタイム学習環境が実現されたのだ。

「特別な教材を必要としたり、専門知識が必要となるような授業では、教材の数や教員の数の問題から、すべての学校で同じ授業をすることは物理的に不可能。だが、Connected Class Roomでは、こうした問題も解決できる。数千の教室をつなげて、相互接続による授業が可能になる」(クレマー氏)というわけだ。

ニューサウスウェールズ州の公立学校では、2011年までに公立学校2200校のIT化を促進する予定であり、Connected Class Roomの仕組みを先行的に導入することになりそうだ。

国内でもパイロットプログラムを開始

日本でも、同様にConnected Class Roomへの取り組みが開始されることになる。

その試金石となるのが、日本におけるパイロットプログラムの開始だ。

「分散した地域の5~6校の小中学校を対象に、無料でPCを導入し、Connected Class Roomを実践できる環境を確立する。それぞれの学校同士を接続した教育環境を実現するほか、海外の学校と接続して、英語学習に役立てるといったこともできるだろう」(郡氏)

導入対象となる学校の選択などは、まだこれからだが、具体的な事例を提案することで、教育分野における存在感を高めていく考えだ。

「日本の公共ビジネスにおいて、まず強化するのが小中学校、高校向け市場。現在、教育分野向けのパートナー戦略について検討しており、すでに数社と話し合いをしている段階にある。教育分野においては、標準的な仕様のPC利用を求めており、その点ではデルは最適だといえる」(郡氏)

高等教育分野、医療分野、政府機関などにも注力

一方で、高等教育分野、医療分野、政府機関などにも力を注ぐ。

高等教育分野では、日本においても東京大学、大阪大学、東京工業大学、北陸先端科学技術大学などへの導入実績があり、ここでもConnected Class Roomの実践に取り組もうとしている。

また、医療分野向けには電子カルテに代表される医療記録の電子化、医療診断のためのツールとしてのIT導入の観点から取り組むほか、政府分野にはデルが得意とする軍事分野への導入、政府向けに最適化したサーバー、ストレージの開発などを促進する考えだ。日本でも、すでに防衛省、農林水産省がデルを導入しており、電子化が進む地方自治体も今後のターゲットとなってくるだろう。

グローバルビジネスユニット化にデメリットは?

だが、その一方で、公共ビジネスがグローバルビジネスユニット化したことでのデメリットはないのだろうか。

というのも、公共分野では各国ごとの教育制度や医療制度の違い、政府の調達指針が異なるといった状況がある。ラージエンタープライズ、中小企業、コンシューマといった他のグローバルビジネスユニットに比べて、ローカル化が求められやすい領域でもあるからだ。

これに対して、クレマー氏は次のように語る。

「アジア太平洋地域の教育市場を例にとってみても、日本、中国、インド、オーストラリアなどの教員が抱える課題は同じ。教員、校長、教育委員会の声を聞いてみると、国は違っても同じニーズがあることがわかる。限られた予算のなかで、いかに最高のIT化を実現し、それを教育効果につなげることができるのか。制度の違いを越えた課題がある。その点では、グローバルビジネスユニット化したことによる、デメリットはない」

郡氏も、「国ごとに制度が違っていても、求められる課題が同じだとすれば、むしろ、公共分野におけるソリューションを提供できるというデルの強みが発揮できる。ITをどうやって活用するのかといった深い知識を持ち、考え抜かれたソリューション、経験に裏打ちされたソリューション、先進的なソリューションを提供できる。グローバルビジネスユニットとなったことで、世界で実績を持つソリューションを、また世界に展開できるメリットは大きい」という。

日本の公共分野におけるハードウェアのシェアを見ると、デルは第3位だという。だが、公共分野における存在イメージは、3位という数字よりも低いのが現状だろう。それは、ソリューションという点での提案が、国産ITベンダーに比べて遅れていたことに起因するとも言えよう。

公共ビジネスが、グローバルビジネスユニットとなったことで、公共分野によりフォーカスできる体制が整ったのは事実。そして、同時に、出遅れていたソリューション提案ができる地盤が整ったともいえる。今後、パートナー戦略の推進とともに、公共分野における存在感をどれだけ高めることができるのかが注目されよう。