ブチ切れ悪役キャラが大暴れ、セクシーコスプレも完備の『ザ・スピリット』

アメコミの実写映画化もいいかげん在庫払底だろう、と思ってたら、また古ーいマンガが発掘されたもんだ。それがこの『ザ・スピリット』。たぶん日本人でこの原作を知ってる人は相当コアだよね。正直オイラもぜんぜん知らなかった。原作者はウィル・アイズナーというアメコミ草創期の伝説的人物。日本でいえば寺田ヒロオみたいなポジションか。この『ザ・スピリット』を、これまたマンガ家が本業のフランク・ミラーがメガホンを取って映画化された。

フランク・ミラーといえば『シン・シティ』などのトンガった作品で近年のアメコミ界を引っ張りつつ、これを実写映画化(共同監督だけど)して評論家をうならせたちょっと職人肌のマンガ家だ。映画はその辺でやめとけば良かったのに、これも自作品である「300」の映画化をプロデュースしたあたりから、だんだんおかしな方向に向かってる気がするのはオイラだけか? とにかくブルーバック大好きというか、100%合成モービルワンみたいな作風は、タツノコ某アニメの実写化や大泥棒映画で賛否両論の某カントクを思い出す。

『ザ・スピリット』も、この合成ワザが炸裂しまくりの作品だ。舞台は無国籍な街セントラル・シティ。主人公のヒーロー「スピリット」はこの街の平和を守るため、事件の声を聞くと駆けつける……のだが、このスピリットの出で立ちが、ただのオッサンがアイマスクしてソフト帽をかぶってるだけ! 何しろ60年前のヒーローだから仕方ないんだけどね。このスピリット役はガブリエル・マクトという人。映画「エネミー・ライン」で主人公の相棒パイロットを演じ壮絶な死を遂げる役が印象的なんだが、それ以外で見たことないなー。原作コミックのスピリットはガッシリ系で女性関係も派手な「特命係長」みたいなイメージだけど、マクト版スピリットはやや線の細いヤサ男なテイスト。

主役が地味だからというわけじゃないだろうが、この映画、脇役が妙に豪華だ。まず敵としてスピリットの前に立ちはだかる「オクトパス」役にサミュエル・L・ジャクソン。そしてオクトパスの片腕として悪事を働くシルケン・フロス役にスカーレット・ヨハンソン─この人も仕事選ばないなあ(笑)。この2人組はハイテンション演技でコスプレやりたい放題。定番の医者とナースをはじめ、出てくるたび違うパターンで登場する。アンタら仕事抜きで楽しんでるだろ?!

そして敵か味方かわからない、峰不二子みたいな謎の女盗賊、サンド・サレフを演じているのがエヴァ・メンデス。名前聞いてもピンと来ないかもしれないけど、日本ではシャンプーのCMや、最近はエロすぎて放送禁止になったカルバン・クラインのCMなど、映画よりもコマーシャルでよく見かけるお方だ。さらにスピリットを取り巻く女として『恋は邪魔者』のやり手編集者役で好印象のサラ・ポールソン、および『シン・シティ』で活躍したジェイミー・キングとキレイどころを用意。女優コスプレファンは大満足だ。このほか、ちょっと抜けた新人婦警のモーゲンスターン(スタナ・カティック)、イカレた踊り子?ふうの殺し屋「プラスター・オブ・パリス」が個人的にはウケた。こうして見ると、悪役はみんなキャラ立ってるねえ。

そういえば、オクトパス一味で「ショッカーの戦闘員」的な役割のクローン人間(同じ人が複数演じている)がワサワサ出てくるんだけど、この役をやってる太っちょの人、どこかで見たことあるなーと思ってたら、「24」のエドガーじゃないの! 「24」じゃクロエにいいように使われ、ここでも使い捨て。そういうイメージなのか。もっともこの映画のエドガー(エドガーじゃないけど)はやられ放題でもヘラヘラしてる。みんなTシャツに「Egos」とか「Patos」とか意味ありげな名前が書いてあって、これがオチにも使われているので注意しよう。「24」つながりでは、サンド・サレフの「夫」役に「24」で同じくCTU捜査官マイロ役だったエリック・バルフォーも登場している。この人ちょくちょく映画にも出てるけど、ブレイク寸前なのかな? にしてもこの馬づら、一度見たら忘れられないよね(笑)。

というわけで、主役がイマイチな以外は結構楽しめる作品だ。まあこの点はガブリエル・マクトに同情しなくもない。だって悪役側のキャラや扮装が強すぎるんだもん。もうちょっと主人公側にも遊び心が欲しかった。それより何より、フランク・ミラーには人のマンガをいじってるヒマがあったら『シン・シティ』の続編をしっかり作れと言いたい(2011年公開予定)。

『ザ・スピリット』は6月6日(土)渋谷東急、新宿ミラノほか全国ロードショー。

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