カンヌ国際映画祭カメラドール賞を受賞した『青いパパイヤの香り』(1992年)や『シクロ』(1995年)などで知られるトラン・アン・ユン監督がメガホンを取った『アイ・カム・ウィズ・ザ・レイン』。謎の失踪を遂げたシタオ(木村拓哉)、彼を追う探偵クライン(ジョシュ・ハートネット)と香港マフィアのボス、ス・ドンポ(イ・ビョンホン)という3人の美しき男たちの運命を官能的な映像美で描く本作は、ロサンゼルス、フィリピン、香港の3カ国を舞台にした壮大なスケールのサスペンスに仕上がっている。本作で主演を務めるジョシュにお話を伺った。

"何か飲むかい?"と取材前に話しかけてきたジョシュ。芸歴長いだけあって、周囲に対する気遣いはパーフェクト!

ジョシュは日本好き

――ジョシュさんは何度も来日されていますが、今回日本で楽しみにしている場所や食べ物はありますか?

ジョシュ・ハートネット(以下:ジョシュ)「寿司や刺身が大好きで、和食を楽しんでいるよ。レストランでは、田舎家に行きたい。もし、時間があったら皇居周辺を歩いてみたいな」

――ショッピングのご予定はあるのでしょうか。

ジョシュ「日本のアーティストの作品を買いに行きたい。僕はあまりファッションにこだわりがないから、服は買わなくてもいいんだ。ヨ―ジ・ヤマモトの作るセーターは素晴らしいと思うけどね」

――お気に入りの日本のアーティストは誰ですか?

ジョシュ「僕は奈良美智が好きだ。彼はとても才能のあるアーティストだと思う。特に、ユーモアのセンスが素晴らしい。彼はアメリカですごく人気があるんだ。7~8年前にアメリカで大ブレイクして、今は彼のスタイルを真似する人たちまで出て来ているほどさ」

――では、作品のことをお聞きします。当初渡された脚本と最終的に仕上がったものとでは、随分違いがあったそうですね

子供の頃に野球をやっていたジョシュは、イチローのファン。"彼のように打てるようになりたい"と、少年の様な表情で話していた

ジョシュ「僕が最初に読んだ脚本は、今と全く違っていた。クラインは40代後半という設定で、パートナーと住んでいるサンフランシスコのシーンが大半を占めていた。僕の出演が決まった後、1年半をかけていろんな要素が加わって、撮影現場で生まれた新たなアイデアも盛り込んでいった結果、この状態に落ち着いたんだ」

――共演した木村拓哉、イ・ビョンホンとは、プライベートで何か交流を持ちましたか?

ジョシュ「正直、彼らのことを知ったのは、キャスティングされてからなんだ。プロデューサーから数本の作品を渡され、それを観てから彼らに会ったよ。拓哉は東京と撮影現場を慌しく行き来していたから、あまり話す機会がなかった。でもイ・ビョンホンは、ずっと一緒に滞在していたから、彼のいとこや友人も交えて撮影が終わった時によく飲みに行ったよ。はりつめた緊張感のある現場だったから、飲むことでストレスを発散させた感じだね(笑)」

マフィアのボスを演じたイ・ビョンホン

写真を残して失踪したシタオ(木村)を追うクライン

――お酒は強い方ですか?

ジョシュ「そうだね。かなり飲める方だよ」

――今回、脱ぐシーンがとても多いのですが、身体的なトレーニングは行ったのでしょうか。

ジョシュ「全然やっていないよ。ジムには滅多に行かない。この体型は遺伝なんだ。僕の叔父なんて、僕よりもっといい体をしてるよ」

――クラインは心と体に深い傷を負い、過去のトラウマに悩まされる難役ですが、どのような役作りを行いましたか?

ジョシュ「クラインは、捜し求めるシタオと同化し彼の足跡を辿ることによって、彼を見つけようとする。そのためには出来るだけ心をオープンにしなければならない。心の問題だから、何かをリサーチしたり、頭で考えたりする必要はなかったよ」

――役作りをしていて、クラインのように気分が沈む時もあったのでしょうか。

ジョシュ「東京やニューヨークのような大都会にいると、僕はたまに閉所恐怖症のような感覚に襲われる。そういう時は、サーフィンに行くようにしている。ビーチに行くとリフレッシュ出来るんだ」

――最後に、俳優としてのキャリアを築く中で影響を受けた作品や俳優を教えて下さい。

ジョシュ「僕は1996年に俳優業をスタートさせたんだけど、その時期に公開された『ユージュアル・サスペクツ』(1995年)、『12モンキーズ』(1995年)、『トレインスポッティング』(1996年)、『バスキア』(1996年)の4本は、強く心に残っている。このような作品の一部になりたい!と願ったんだ。ショーン・ペンのことは昔から尊敬している。知名度はなくても長年俳優を続けて、いい仕事を成し遂げる人たちはたくさんいる。例えば、ジョシュ・ブローリン、ハビエル・バルデム、トム・ウィルキンソンらは、最近素晴らしい演技を見せている。彼らを見ていると作品に恵まれるって本当に大切だと思う。真の俳優は年を取れば取るほど演技が豊かになって輝きが増すものだ。僕も彼らの半分でいいからそうありたいよ」

"自分にとっての成功は、心から尊敬している人々と仕事をすることで成長し、映画を観た人にインスピレーションを与えること"と語るジョシュ。出演作を芸術の域にまで高めることが彼の目標だ

26日朝に空港に到着し、その日はずっとインタビュー続きだったジョシュ。時差ぼけのため、スタッフが差し入れた栄養ドリンクを取材前に飲み干し、疲れているのに嫌な顔1つせず、どんな質問にも丁寧に答えてくれました。とりわけ、アートの話になると饒舌で、かつてジョシュと約2年間交際していたアーティスト志向の強いスカーレット・ヨハンソンは、彼のこんなところが好きだったんだろうな~といろいろ考えていたら、あっという間にインタビュー時間が過ぎていきました(笑)。

PROFILE

Josh Hartnett

1978年7月21日生まれ アメリカ、カリフォルニア州サンフランシスコ出身 30歳

ホラー映画『ハロウィンH20』('98)でスクリーン・デビュー後、ロバート・ロドリゲス監督『パラサイト』('98)、ソフィア・コッポラ監督『ヴァージン・スーサイズ』('99)と、順調にキャリアを重ねる。2001年には、ジェリー・ブラッカイマーが制作した超大作『パール・ハーバー』と『ブラックホーク・ダウン』に出演。翌年、ピープル誌の最も美しい人の1人に選ばれる。フランク・ミラーとロバート・ロドリゲスが共同監督をした『シン・シティ』('05)、ブライアン・デ・パルマ『ブラック・ダリア』('06)といった話題作の出演を経て、2008年にはロンドンのウエストエンドで『レインマン』の舞台に立ち、演技力を磨いた。今年は3本の主演作が待機しており、 『Nobody』(原題)ではプロデューサー業に着手。活躍の場を広げている

撮影:石井健