2009年の全米興行成績で2位となる初登場記録を打ち立てた『スター・トレック』。マニアックなファンを世界中に持つ往年のTVシリーズの再構築作品が幅広い年齢層にアピール出来たのは、J.J.エイブラムスの功績によるものが大きい。彼はオリジナルの要素を尊重しつつ、偉大な父を持つ主人公カークが仲間との出会いを経てどのように成長していくかに焦点を当て、誰もが共感出来る物語として甦らせた。この度、本作をメガヒットに導いたJ.J.エイブラムス監督が来日。単独でお話を伺った。

決して大物ぶらず、いつもフレンドリーに話してくれるJ.J.エイブラムス

趣味は日本のおもちゃ屋めぐり

――過去の来日時に、中野ブロードウェイやジブリ美術館を訪れたそうですね。今回、楽しみにしている観光スポットを教えて下さい

J.J.エイブラムス(以下:J.J.)「東京の街を歩くだけで、新しい発見を得られる。世界で一番大好きな街だ。子供を連れて来日したこともあるよ。ジブリ美術館には、もう2~3度行った。今回は、初めて相撲を観ることが出来て、ものすごく感激した。僕は相撲レスラーには詳しくないので、まわしの色で勝敗を予想しながら取組を楽しんだよ」

――日本で見かけた怪獣のフィギアにインスパイアされて『クローバーフィールド/HAKAISHA』を作ったというのは有名な話ですが、今回もどこかで次回作のヒントを得ましたか? J.J.「『M:I-III』で来日した際は、秋葉原のおもちゃ屋で買ったフィギアから作品のヒントを得た。このインタビューの後、キデイランド原宿店へ行くから、何かヒントを得るかもしれない(笑)。僕はおもちゃ屋巡りが大好き。銀座の博品館もお気に入りなんだ」

キャスティングの魔術師

J.J.は、『スター・トレック』シリーズに再び命を吹き込み、すべての観客が楽しむことが出来る作品を作り上げた

――TV版でMr.スポックに扮したレナード・ニモイは、2003年に引退を表明していますが、彼をどうやって口説き落としたのでしょう

J.J.「彼が脚本を気に入ってくれたんだ。僕らはとてもラッキーだったよ。彼が出演してくれなかったら、僕らは真っ青になってストーリーを書き直さざるを得なかった」

――ご自身がクリエイターを務める、TVシリーズ『フリンジ』(原題)にも彼を起用していますね

J.J.「彼は途中参加となったけど、来年から放送されるシーズン2にも出るんだ。日本でも早く放送が始まることを願っているよ」

――スコッティ役(オリジナル版『宇宙大作戦』のチャーリー)のサイモン・ペッグは、映画オタクとしても有名です。監督と話が合ったのでは?

J.J.「僕とサイモンは映画の好みが似ているんだ。彼と話していると、一緒に生まれ育った兄弟かもしれないと思うくらいさ。彼はとってもいい奴で、撮影の合間も楽しく過ごせたよ」

――映画談義で盛り上がった、なんてこともあったのでしょうか?

J.J.「そうだね。僕らは、怪獣映画やホラー映画が大好き。『トワイライト・ゾーン』と『スター・ウォーズ』の大ファンであることも共通している。でもサイモンは僕以上の映画オタクで、とんでもなくマニアックなんだ。特に彼の『スター・ウォーズ』に関する豊富な知識には驚かされたよ。しばしば、僕は彼の会話に出てくるシーンのトリビアが分からなくて、悔しくて後で調べたことがあったくらいさ(笑)」

ジョージ・ルーカスの助言を……

――剣を使ったファイト・シーンは、『スター・ウォーズ』のライトセーバーを意識したのでしょうか?

J.J.「これは、TV版『スター・トレック』でスールー(オリジナル版のミスター・カトー)が演じたフェンシング・シーンのオマージュだよ。本作の撮影前、ジョージ・ルーカスに"ライトセーバーを使え"とアドバイスされたことも少しは影響しているかもしれない。ちなみに……『スター・ウォーズ』のライトセーバーは元々、1930~40年代の映画からインスパイアされたものなんだよ。若い人たちにとっては、ライトセーバーと言えば『スター・ウォーズ』なんだろうけどね」

――他にどんなアドバイスを受けたのですか?

J.J.「デジタルで撮れとも言われたな。でも僕はフィルム派だから、その意見は聞かなかったことにして撮影に入ったよ(笑)」

――『スパイ大作戦』に続き、『スター・トレック』を現代に甦らせることに成功しましたが、今後、再構築したいと狙っている過去の名作はありますか?

J.J.「今はないよ。TV作品の再構築をやりたくないわけじゃないけど、もう2本もやっているし……しばらくは別のアプローチを試してみたいと思っている」

――本作は大ヒットを記録し、早くも続編の噂が出ていますね

J.J.「今のところ、何も決まっていないよ。今月中に何らかの動きがあると思うけどね」

――たくさんのプロジェクトを抱えていらっしゃいますか、ストレス解消法は?

J.J.「ストレスを解消する時間なんてないよ。仕事が終わり開放されたと思っても、家に帰れば父親としてのストレスに悩まされているからね。幼い子供が3人もいるとそういうものさ。そのおかげで僕はストレスに強い。それは自慢出来るよ(笑)」

こんなお茶目な表情も

仕事で4度、お忍びで来日したこともある日本通のJ.J.。『クローバーフィールド/HAKAISHA』の元となった怪獣フィギアを見つけた場所(諸説ある)の話になると、考えを巡らせた末に"秋葉原のおもちゃ屋"と断言していました。おもちゃ屋さん巡りが大好きなだけに、お店を間違われたくない様子でした(笑)このように、いつまでも少年の心を失わない監督だからこそ、人々を熱狂させる作品を生み出せるのかもしれません。

PROFILE

J.J. Abrams

1966年6月27日生まれ アメリカ、カリフォルニア州ニューヨーク出身 42歳

サラ・ローレンス大学4年生の時に書いた脚本がタッチストーンに買われ、製作を兼ねた『ファイロファックス/トラブル手帳で大逆転』('90)で映画界デビューを飾る。その後、ハリソン・フォード主演『心の旅』('91)やメル・ギブソン主演『フォーエヴァー・ヤング』('92)で製作と脚本を手がけ、ブルース・ウィリス主演『アルマゲドン』('98)にも協力する。『フェリシティの青春』('98-'02)でTV界に進出。『エイリアス』('01-'06)と『LOST』('04-'10)を大ヒットさせ、一躍時代の寵児となる。トム・クルーズ主演の大作『M:I-III』('06)で劇場映画初監督を任され見事結果を出し、ジャンルを問わないマルチな活躍ぶりでヒット請負人の名を欲しいままにしている

撮影:石井健