今回のショーで多かったのは、画像認識技術を元にした安全運転支援システムだった。カメラからの映像(ビデオ)を元に人や自転車が写っていることを判断し、それを運転者に伝えるシステムである。これは大きく分けてインフラを使用するタイプと、クルマに搭載する自立型がある。それぞれの出展を見てみよう。

ETCかカーナビに組み込まれるインフラ型システム

見通しの悪い曲がり角から飛び出してくる自転車や歩行者は、クルマの運転者にとっては予測できないもののひとつ。であれば、曲がり角にカメラを設置しておき、自転車などの存在をクルマに伝えればいい。これがインフラ型の「DSSS」(Driving Safety Support Systems:安全運転支援システム)の基本的な考え方だ。検証などは警察庁の外郭団体となる新交通管理システム協会が行なっている。

今回、東芝もこのDSSSを展示していた。交差点からの映像に歩行者や自転車が写っているのだが、交差点から遠ざかっていく被写体は青い枠、近づいてくる被写体は赤い枠で表示されていた。つまり危険でないものは青く、危険性が高いと判断すると赤く表示される。そして危険な歩行者や被写体があると、その情報を見えないところからやってくるクルマに送るわけだ。

クルマに情報を送る手段としては、「DSRC」(Dedicated Short Range Communication)と光ビーコンの2種類があるようだ。DSRCはETCと同じ双方向無線通信技術であり、ユニットがETCと共用できるために小型化も可能になる。三菱重工のブースではDSSSに対応した車載機を展示していたが、既存のETCユニットよりもひとまわり大きい程度のサイズに収まっている。仕上がりもきれいだった。あとはDSSSに対応したカーナビなり、車載の表示装置に接続すればいい。

三菱自動車のブースでは、カーナビを搭載していないクルマ向けのDSSSを展示していた。シンプルな3つのインジケーターランプと音声のみで運転者に告知する。こちらは受信に光ビーコンを使用していた。光ビーコンは渋滞情報などでお馴染みの「VICS」(Vehicle Information and Communication System)でも使われており、こちらもインフラへの追加投資は少なくて済むはず。

あとは、どのくらい交差点にDSSSのカメラシステムが設置されるか。こちらはまだ実証中とのことで、普及にはもう少し時間がかかりそうだ。

東芝のブースでデモを行っていたDSSS。近づいてくる自転車に赤枠が載っているのがわかるだろうか

DSSSのシステム概要。歩行者や自転車の接近をクルマに知らせる

三菱重工業のDSRC車載機。ETC機能も搭載。少々わかりづらいが、左は既存のETC

DSSSの表示や警告はカーナビなどが想定されている

三菱自動車のカーナビを使用しないDSSS。ダッシュボードに置かれたインジケーターと音声で警告

三菱自動車のDSSS解説パネル。歩行者や自転車の接近だけでなく、追突防止や信号見落としなども盛り込まれている

クルマ内で完結する独立型の安全支援システム

DSSSはカメラや通信装置などのインフラを必要とするため、すぐにすべての場所で有効というわけにはいかない。対してクルマだけで独立した安全運転支援システムも考えられている。これも映像判断技術が中心になっている。

スバルが実用化している「EyeSight」がその代表だろう。ステレオカメラと3D画像処理技術を用い、歩行者や自転車を認識し、警告を出すシステム。レーダーなどを使用せず、ステレオカメラのみで対応している。今回のショーでは共同開発を行なった日立製作所がカメラを展示していた。

トヨタの「クラウン ハイブリッド」に搭載される「ナイトビュー」も歩行者を認識するという点では同じだが、こちらは赤外線カメラを使用している。これでロービームの照射範囲よりも遠い、前方約40-100mの歩行者を認識する。今回はフルカラーTFT液晶メーターを開発したデンソーのブースで展示されていた。

やはりデンソーが展示していた道路標識認識システムもやはり画像認識によるもの。カメラによって走行中前方のエリアをくまなく走査し、標識をチェックするというもの。日本の標識は非常に数が多く、見づらいこともあるのでこれは有効だろう。

運転者の状態を認識するシステムも開発が続いている。今回は東芝のブースで展示されていた。居眠り防止などには効果があるが、それ以上の使い方は現在リサーチしているところだという。

この関連で、今回いちばん驚いたのがエプソンの「感情認識デバイス」だった。これは音声認識を応用したもので、運転者の声から「喜び」「怒り」「悲しみ」などの感情を表示するシステム。AGIの感情認識技術を最適化しているとのこと。応用例として、興奮状態の時には車内にリラックス効果のあるアロマや音楽を流したり、タクシーでは乗客の声が不審な場合に自動でビデオ記録を開始するといった例が挙げられていた。それ以外にも、運転者がなにやら怒っているときには、自動的にエンジン出力を下げるといった機構を組み込めば、安全運転に貢献するかもしれない。

スバルの「EyeSight」に使われているステレオカメラ(上)。日立製作所が展示

デンソーが展示していた「歩行者検知ナイトビュー付きフルカラーTFT液晶メーター」

デンソーの「道路標識認識」システム

東芝の「運転者状態認識システム」。現在はPCで動作しているが、さらに小型化するとのこと

エプソンの「感情認識デバイス」。といってもまだまだ試作レベルとのころ

エプソンの音声認識LSIと感情認識デバイスの説明パネル