ケータイはシェア向上 - ADSL、固定通信が堅調で、増益に貢献
ソフトバンクは、2008年度(2008年4月-2009年3月)の連結決算を発表した。売上高は、対前年同期比3.7%減の2兆6,730億円、営業利益は同10.7%増の3,591億円、経常利益は同12.7%減の2,256億円、当期純利益は同60.3%減の431億円で、営業利益は4期連続で過去最高となった。ヤフーの広告事業や、ADSL事業、固定通信事業などが貢献した。同社は、次年度も営業増益を見込んでおり、旧ボーダフォン日本法人の買収により膨らんだ純有利子負債を2011年度には半減、2014年度には完済する見通しであることを明らかにした。
同社の売上高の58%を占める移動体通信事業は同4.2%減の1兆5,628億円、営業利益は同1.8%減の1,713億円となった。これは、景気後退の影響や、端末割賦販売により、端末の利用期間が長期化し、携帯電話端末の販売数が減少したことが要因といえるが、通信料収入は同1.4%増の1兆312億円だった。同社の孫正義社長は「販売台数は減ったが、経営的に意図したことであり、その通りの結果となった。通信料は増に漕ぎ着けた」と話す。
移動体通信事業は、他社に先駆けた端末の割賦販売や製品ラインナップの強化、さらに2008年のiPhone 3Gの投入などが効果を上げた。同社の月間純増数は、2009年3月まで23カ月連続で首位を獲得。2008年度年間の純増数は同11.0%増の204万6,700件となっている。2007年度に続き、通期での首位を守り、累計契約数は2009年3月末で2,063万2,900件となり、シェアは同1.1ポイント上昇、19.2%となった。第3世代携帯電話の比率は前年同期比で14.8ポイント上昇、全体の90.4%に達し、同社は2010年3月末に第2世代サービスを終了させる予定だ。
総合ARPU(Average Revenue Per Unit:1ユーザーあたりの平均収入)は、対前年同期比580円減の4,070円だった。新スーパーボーナス加入者向けの特別割引「月月割」の利用者増などにより、音声ARPUが同830円減の2,320円に低下したことが原因だ。一方、データARPUは同250円増の1,740円で、拡大基調にある。
通期の解約率は1.0%で、前年度比で0.32ポイント改善したが、NTTドコモは0.5%にまで下がっている。これについて孫社長は「(NTTドコモのように)新規ユーザーが少ない事業者の解約率は低くなる。当社も既存ユーザーの部分はドコモとそう変わらないのでは」と前置きした上で「iPhoneのような新しい端末、新たなサービスを投入すれば、(当社への)乗り換えは増える。悲観はしていない。実際、iPhone契約者の大半は乗換えだ」と述べた。
今期の決算で、営業増益の原動力となったのは、ヤフーを核に、1,250億円の営業利益を稼ぎ出したインターネットカルチャー事業とともに、ADSL事業のブロードバンド・インフラ事業と固定通信事業だった。ブロードバンド・インフラ事業では、ADSLの累積接続回線数の減少に伴い、売上高は対前年同期比8.9%減の2,351億円だが、営業利益は同19%増の472億円だ。いまや、ユーザー獲得や販売関連の費用も少なくなり、通信設備の減価償却費も減少。孫社長は「先行投資は終わり、収穫できる時期に入った」と述べる。また、固定通信事業も、売上高は同1.9%減の3,636億円だが、営業利益は同5.67倍の189億円となっている。2006年度は29億円の赤字だったのだが「確実に利益を出せるようになった」(同)と説明する。
大規模投資は控え、「借金」をゼロに
今回、孫社長が宣言したのは「純有利子負債の半減、解消」だ。同社は携帯電話事業に参入するため、2006年に当時のボーダフォン日本法人を買収した。その際の資金調達のため、約2兆円の借入金を抱え、2009年3月末で、純有利子負債は1.9兆円に上っている。ソフトバンクは2009年度のフリーキャッシュフローは2,500億円になると見込んでいるが、これを今後3年間で1兆円前後にすることを図っており、純有利子負債を2011年度で半分に圧縮、2014年度にはゼロにするという。孫社長は「"ゼロ"達成までは、数百億~数千億円に達するような大規模投資はしない。自信を持って"ゼロ"化を述べることのできる段階にきた」と語った。
「ソフトバンクは荒っぽい経営の、借金が多い企業との、残存イメージがあるが、再来年には大きく変わる。2014年にはそんなイメージは沸いてこなくなる」と孫社長は話す。同社は、このような見通しを背景に、2009年度の営業利益を同17%増の4,200億円とし、増収増益を予想している。「携帯電話端末の販売はやってみないとわからない面もある。移動体端末事業全体の売上高はわからないが、大きく下落するとはみていない。通信料収入は伸びると考えており、増収増益は見込める」(同)としている。
一方、次世代通信規格LTE(Long Term Evolution)への取り組みについては「積極的にやっていきたい。ハイテク機器は実はそれほど費用がかからない。ただ、1年間ですべて済ませるのではなく、計画的に実行する」(同)意向で、2~3年以内に投資を開始する予定だ。投資額は1,000億円を超える見込みだが、「有利子負債ゼロ化」までは「大規模投資」はしない基本方針があるため「何年かに分散する」(同)とのことだ。
「光」の次は「iPhone」か?
利益の期待できる領域に注力し、大規模投資は控え、負債の完済を目指す。同社がこのような姿勢を打ち出したのも、インターネットの機軸はモバイルであると明確に位置づけたところに源流があるようだ。「昨年8月の発売以来、毎日、iPhoneを使っている。インターネットの利用頻度は、以前の3~5倍くらいになったが、パソコンを使う頻度は1/10に減った。それでは、光ファイバーにはどの程度、必要性があるのか。『光』を一生懸命使わなければならないという人々は、遅れているのではないか」と孫社長は説明する。すべての携帯電話がインターネットマシン化し、インターネットの利用形態の主流がパソコンから携帯電話に移行すれば、インターネット利用環境の最終系は「光」との図式が揺らいでくる。孫社長は、ハイビジョン動画の配信、大規模ファイルのやり取り、地デジの配信路など、「光」の利点の例を挙げ、全否定はしないものの「人々があまり必要としてはいないものへの投資は如何なものか」と指摘。インターネットの全面的な「光」化への道筋に対し、異論を主張した。