マイクロソフトは24日、再生PC事業者向けに実費のみでWindows OSのライセンス提供を行う「The Microsoft Authorized Refurbisher(MAR)プログラム」を開始したと発表した。プログラムに参加するパートナー事業者9社は、25日からライセンスされたWindowsを搭載した再生PCを販売する予定だ。同社では、これによって再生PCの購入者が海賊版を利用するなどの問題を解消するとともに、再生PC市場を活性化させ、環境問題に貢献することも狙う。

現在の再生PCの販売プロセス。個人や企業の買い換え、企業のリース終了品などが再生PC事業者に販売され、それが改めて再生PCとして店頭に並ぶ。ただ、従来はOSなしの販売が多かった

ここにマイクロソフトが正規のWindows OSを安価に提供する、というのが今回のMARプログラム

再生PCは、中古PCをエンドユーザーから買い取った事業者が、HDD内のデータを完全消去するなどしたうえで販売されるPC。今回は基本的にメーカー製PCが対象となっているが、こうしたメーカー製PCの場合はOEM版のWindows OSがプリインストールされており、そのPCには1つのWindowsがライセンス提供されている。また、再インストール時などのためにリカバリディスクが付属している。

しかし、それまでの利用者がリカバリディスクを紛失した場合や、ディスクが付属せずにHDD内の一部領域をリカバリ用として使っているノートPCなどでは、HDDを完全消去した場合にもともと付属していたWindowsをインストールできなかった。

マイクロソフトがこれまで行ってきた対策。この「流通/寄贈」に当てはまるのが今回の施策

そのため、従来は再生PC事業者はOSなしのPCとして販売しており、再生PCの購入者側で別途通常のWindows OSを単体で購入・インストールするしかなかった。単体でOSを購入すると20,000円~30,000円程度の費用がかかるため、低価格の再生PCでありながらさらなる出費が必要だった。

そうした状況の中、ネットオークションや秋葉原などの露店で違法な海賊版Windowsが安価に販売されており、マイクロソフトでは海賊版対策を強化している他、海外では海賊版Windowsにマルウェアが仕込まれユーザーが被害に遭うという事例が発生しているとして、海賊版の利用に注意を促しているが、安価であるためそれを購入するユーザーが後を絶たなかった。

2つのCOREシールが貼られたPCを示す、コマーシャルWindowsビジネス本部長・中川哲氏

今回のMARプログラムは、そうした状況を解消するために、マイクロソフトが再生PC業者向けにWindows OSをライセンス提供。「メディア代や流通費などの実費のみ」(コマーシャルWindowsビジネス本部長・中川哲氏)で提供されるため、OSなしとほとんど変わらない価格で再生PCが販売できるようになる。

ライセンス提供する条件としては、メーカー製PCでリカバリメディアがなく、HDDのデータ消去後にOSをインストールできないPCが対象で、プログラムに参加する9社が販売する再生PCのみに提供する。WindowsがプリインストールされたPCにはWindowsのライセンスを示すCORE(Certificate of Authority)シールが貼られているが、これに加えてMARプログラムで提供されたライセンスを示すCOREシールが新たに貼付された形で販売される。

MARプログラムによる正規のライセンスは、この2枚目(下段)のCOREシールが証明している。ちなみに、1枚目のCOREシールがはがされた中古PCは、今回のプログラムの対象外となる

提供されるWindowsはWindows XP Home Edition/Professionalのいずれかで、プリインストールされたOSのエディションによっていずれかが提供される。XP以外のWindows 98やMe、2000、VistaといったOSがプリインストールされたPCは、今回のプログラムの対象外だが、中川本部長によれば「再生PCの流通量の8割以上がWindows XPがプリインストールされていたPC」ということで、大部分をカバーできるとしている。

プログラムに参加する再生PC事業者は、一定規模以上の再生PCを販売した実績があり、適切に中古PCを再生、流通、販売させられる事業者で、データ完全消去、動作検証、故障修理といったサポートが提供できることが条件。現在は9社のみだが、条件を満たす事業者については今後パートナーとして加わる可能性があるという。

プログラムに参加する9社

会見にはその代表者も列席。下段左からマイクロソフト・伊藤ゆみ子氏、REITA常務理事・事務局長の小澤昇氏、アンカーネットワークサービス 碇隆司・代表取締役、川上キカイ 川上峰誉・代表取締役、ソフマップ 中阿地信介取締役、上段左からティーズフューチャー 安川鋼社長、デジタルリユース 戸越純二社長、東電環境エンジニアリング 細川忠士社長、パシフィックネット 上田満弘社長、ブロードリンク 榊彰一社長、ヤマダ電機 栗原正明専務、マイクロソフト・中川哲氏

参加企業で再生PC市場の85%を占めるという業界団体・中古情報機器協会(RITEA)によれば、07年度の再生PC販売台数は158万9,000台。このうち約7割がOSなしで販売されているという。このうちの8割以上を占める「Windows XPがプリインストールされていた再生PC」に対し、事業者に実費だけでWindows OSを提供することで、購入者が違法な海賊版を使うことを防ぐことが目的だ。

また、わざわざOSを再インストールするなどの手間をかけることなく、正規のWindows OSが利用できるようになるため、これまで再生PCの購入をためらっていた消費者にも訴求でき、再生PC市場のさらなる活性化も期待する。

さらにマイクロソフトやRITEAによれば、再生PCは、新製品としてPCを製造する必要がなく、製造に伴うCO2排出などの環境負荷なども抑えられ、環境にも貢献できると指摘する。RITEAの試算では、160万台近い再生PC本体に中古ディスプレイを加えると、同じだけのPCを製造するのに比べて19万トン以上のCO2排出を抑えたのと同じ効果があり、これは太さ30cmの一般的な樹木123万3,000本が、1年間に吸収するCO2量に相当するそうだ。

RITEAによれば、再生PC市場は伸張しており、今回のプログラムによってさらなる拡大が期待できる。また、試算によれば再生PCによって大幅なCO2排出抑制効果が期待できる

こうした点から、マイクロソフトは海賊版対策・環境への貢献などをプログラムの背景としてあげる

マイクロソフトの樋口泰行社長は「経営方針の1つとして環境問題を挙げている」(マイクロソフト執行役 法務・政策企画統括本部長・伊藤ゆみ子氏)。伊藤氏は、MARプログラムによって再生PCの流通が促進され、廃棄されるPCが減少することなどを期待し、今回の取り組みを成功させることで「循環型社会の実現に貢献していきたい」(同)としている。

マイクロソフト執行役 法務・政策企画統括本部長・伊藤ゆみ子氏