『レイン・フォール/雨の牙』は、国際都市・東京とその裏社会を舞台にした本格ハードボイルドサスペンスだ。『レオン』と『ボーン・アルティメイタム』のテイストを併せ持った本作で主役の暗殺者、ジョン・レインを椎名桔平が演じている。ゲイの手下役から大手自動車会社のエリートセールスマンまでこなす幅広い演技力で、自身の職務と殺しの標的の娘に対する愛の狭間で苦しむ孤高の殺し屋を見事に演じきっている。そんな彼に彼自身もレインの孤独にとても惹かれたと語る。
「僕は、ジョン・レインの孤独に強く惹かれました。アメリカ海軍特殊部隊の兵士として戦争を経験したジョン・レインにはトラウマもあるが、今は殺し屋を家業としている。その複雑な思いをこの役に投影したかったのです。すべての人は大なり小なり孤独を持っている。観客の皆さんも彼の孤独な心に共感して欲しいと思っています」
監督と脚本を手掛けたのは、カンヌ国際映画祭「ある視点部門」で審査員特別賞を受賞した『トウキョウソナタ』の脚本を手掛けたオーストラリア出身の新鋭マックス・マニックス。外国人から観た日本を独特の映像美で描いている。
「日本とアメリカの中間に存在するような映画になっていますね。『ロスト・イン・トランスレーション』や『ブラックレイン』のように外国の方が見ると日本はこういう風に映るのかと驚くほど、この国を新鮮に感じることが出来るんですよ。原作者、監督、脚本、撮影監督……みんな外国人ですから、その目を通して描かれた東京になっているんです」
共演は、映画『レオン』のエキセントリックな刑事役などで世界的に知られるゲイリー・オールドマンに加え、長谷川京子や柄本明らが顔を揃える。全編を通して繰り広げられるハードなアクションの中でもとりわけゲイリーとの対決シーンには、神経を使ったようだ。
「若い頃から憧れていたゲイリーと共演出来るなんて思ってもみませんでした。彼と初めて会った後、テストもなしに対決シーンから撮影が始まりました。このシーンは台本8ページにも及んでいて、しかもすべて英語。ゲイリーの話す英語は早いし、緊張感がある。ジャズみたいにお互いの演技を徐々に合わせていくという感じでしたね。そんな中、一度殴ったフリをしてから銃を構えなおして再び、というシーンで彼の顔に銃が当たったことがあったんです。現場がピーンと張り詰めたような空気になって……あの時は、正直あせりました(笑)。でもゲイリーはプロ意識の高い人ですから、「続けよう!」と言って演技を続行してくれて助かりましたね」
撮影中には、ゲイリーの意外な一面を垣間見ることが出来たという。
「ゲイリーが僕にドッキリを仕掛けたんですよ!監督から一度OKを貰ったシーンなのになぜかもう一回やろうと言われて……おかしいと思いつつ演じていたら、後ろからゲイリーが僕の背中をトントンと叩くんです。そこに彼がいるはずのないシーンなのにね。彼は僕を驚かそうと監督と示し合わせていたそうなんです。彼はそういった場を和ませるようなイタズラを作品の中で一度だけやるんだって。様々な国籍の俳優やスタッフが集まった現場でしたが、和気あいあいとしていて本当に楽しかったです」
本作は、全世界でベストセラーとなったハードボイルド小説『雨の牙』(バリー・アイスラー著)が原作。華麗なアクションと流暢な英語のセリフも難なくこなした彼が世界的に注目を浴びることは必至だが、俳優としてのハリウッド進出には興味がないときっぱりと断言する。
「ハリウッド進出は考えたことがないですね。僕は今回のように、世界の素晴らしいフィルムメーカーに、日本で映画を作って欲しいと思っているんですよ」
そう語る彼の凛とした表情には、日本人俳優のプライドが見て取れた。
『レイン・フォール/雨の牙』は4月25日公開。
PROFILE
しいな・きっぺい
1964年7月14日生まれ 三重県出身 44歳 21歳の時に映画『時計 Adieu I’Hiver」('86)でデビュー。『ヌードの夜』('93)で演じた同性愛者の役で注目されて以来出演作は30本に上る。代表作は『GONIN』('95)、『不夜城』('98)、『金融腐食列島 呪縛』('99)、『化粧師』('02)、『スパイ・ゾルゲ』('03)、『クイール』('04)、『忍SHINOBI』('05)、『輪廻』('06)、『さくらん』('07)、『アンフェアthe movie』('07)、『魍魎の匣』('07)、『隠し砦の三悪人』('08)。最新作は『余命』('09)。映画、TV、舞台、CMと幅広く活躍する日本を代表する俳優のひとりである。
撮影:石井健