数々のヒット作を送り出してきたコメディキング、ジム・キャリーの最新作は、ストレスと孤独に苛まれている僕のような現代サラリーマン必見の一本です。
銀行員のカール(ジム・キャリー)は、これまでの人生における面倒なことや厄介なことからすべて「NO」という返事で逃げてきた男。そんなカールを見かねた友人に連れて行かれたセミナーで「どんなことにもYES」と答えると約束させられ、人生が一変する――。
「イエスマン」という単語は日本ではあまり良いイメージでは使われていないような気がするのですが、本作は別に上司に媚びへつらうサラリーマンの話ではなくて、それまで「NO」ばかりで付き合いの悪かった男が、あるきっかけにより「YES」と言うようになったら人生が好転しましたよ、というコメディならではの超ご都合主義な物語。だがそれがいい!
嫌な頼みごとをされても「YES!!」、面倒な友人からの誘いにも「YES!!」、とにかくすべてに「YES!!」。……時には「YES」と答えたことを後悔するような出来事も起こるものの、"災い転じて福となす"のことわざの通り、主人公には次々と幸運が舞い込みます。たとえば若くて可愛い恋人が出来たり、出世したり。
この展開をシリアスな映画でやられたら、間違いなく「人生そんなうまくいかねーよ!」とツッコんでしまうと思うのですが、コメディなんでそこらへんを深く考える必要はまったくありません。
……そう言いながらもちょっと気になったのが、主人公が「すべてにYESと答える」きっかけになった自己啓発セミナー。
いや、まあ、ポジティブな姿勢は結構なことだと思うのですが、このセミナーの趣旨が「YESという言葉を崇める」というもので、これがめちゃくちゃうさんくさい。どのくらいうさんくさいかというと、久しぶりに電話してきたと思ったら「このシャンプーとリンス、ちょっと高いと思うかもしれないけどマジ凄いんだぜ! え? 値段? 79,800円だけど」と、ビー玉みたいになった目で勧めてきたK君ぐらいうさんくさいです。
教祖(セミナーだから先生か?)を囲んで参加者が「YES!! YES!!」と熱狂する様は、おそらく観客を笑わせようとしているのだとは思いますが、僕はこの手のセミナーが苦手なのでちょっと引いてしまいました。そういう人は結構多いんじゃないかと思います。
……で、本編は主人公がそのセミナーに感化されたまま話が進んでいくので、もしこのまま「YESと答えればとにかく全部うまくいくんだ!」「セミナーは正しかった!」という結論で終わったら、いくらコメディとはいえちょっとなあ……と思っていたのですが、そこはちゃんと絶妙なオチが用意されているので、自己啓発セミナーと聞いて不安になった方もご安心を。
――ところで、僕はこの手のライフハック的なテーマを扱った物語が苦手なのですが(そういうテーマが裏にあってもいいとは思うけど、あからさまに見えるのは萎える)、本作はジム・キャリーならではのコミカルな動きと誰にも真似できない顔芸のおかげでうまくコメディとして昇華されており、まったく嫌な印象を受けることがありませんでした。
おそらくまず最初にテーマありきで製作された映画だと思いますが、コメディというジャンルを選んだこと、そしてジム・キャリーというキャスティングは大正解だったのではないかと思います。
もう大ベテランと呼んでもいいポジションにいるジム・キャリーですが、代表作である『マスク』の頃からまったく変わらず、体を張って貪欲に笑いを追求する姿勢には素直に好感が持てました。
世間ではもうすぐ4月ということもあり、新たな環境で新生活のスタートを切る人も多いはず。本作は、目の前の不安に負けてつい消極的な選択をしがちな方にぜひご覧いただきたい作品です。
実はこの映画のコンセプトには元ネタがあり、イギリス人のユーモア作家ダニー・ウォレスが実際に「すべてにYESと言ってみる」というルールを自身に課して過ごした7カ月間の出来事をまとめた回顧録をもとに製作されたのだとか。
え、じゃあ何? 多少誇張はあるとしても、全部本当の出来事なの? 可愛い恋人が出来たり可愛い恋人が出来たり可愛い恋人が出来たりするの?
……すみません、いろいろ書き散らかしといて今さら手のひら返すのもどうかと思うのですけど、そういうことなら僕もその「YESを崇める自己啓発セミナー」に入りたいので、ダニー・ウォレスさん、よろしくお願いします。
『イエスマン "YES"は人生のパスワード』はただ今全国ロードショー中です。
(c) 2008 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. - U.S., CANADA, BAHAMAS & BERMUDA. (c) 2008 VILLAGE ROADSHOW FILMS (BVI) LIMITED - ALL OTHER TERRITORIES.
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