ボクシングの中継番組『エキサイトマッチ~世界プロボクシング』。WOWOW開局の1990年から放送し続け、今年3月で放送800回を迎える。そんな同番組の800回放送を記念した特別企画『"鉄人"マイク・タイソン伝説』を、3月20日から3夜連続で放送。『エキサイトマッチ~世界プロボクシング』の立ち上げから携わってきたチーフプロデューサーの大村和幸氏に、同番組の見どころやマイク・タイソンの魅力などについて聞いてみた。

10試合をノーカット放送

『エキサイトマッチ~世界プロボクシング』の800回を記念した特別番組『"鉄人"マイク・タイソン伝説』は、同番組の1990年当時オープニングを飾ったマイク・タイソンを全面にフィーチャー。ヘビー級の一時代を築き上げ、ヘビー級の歴史を変えたともいえるタイソンの現役時代10試合(詳しくは表組を参照)をノーカットで放送するほか、今回新たに撮影された小田和正、伊集院静、関根勤、ファイティング原田ら8人のインタビュー映像を交え、タイソンの凄さに迫っていく。

大村和幸
中央大学文学部卒業。1990年3月WOWOW入社。制作局スポーツ部に配属され、『エキサイトマッチ~世界プロボクシング』の立ち上げに携わる。以降は総合格闘技『RINGS』も立ち上げた。その後、営業部を経て、2004年から再びスポーツ部で『エキサイトマッチ~世界プロボクシング』のほか、『UFC』なども担当している

大村和幸氏(以下大村) : 「タイソンが初めてタイトルを獲った試合から、イベンダー ・ホリフィールド戦までの厳選10試合をフルマッチで、加えて新たに撮影した小田和正さんら8人のインタビュー映像をお届けします。見どころは、当時の迫力を余すところなく伝えたいということと、未だにタイソン復帰待望論が囁かれるなかで、彼の強さや魅力をたっぷりとお伝えしたいですね」

『エキサイトマッチ~世界プロボクシング』の立ち上げから携わり、これまで多くのボクサーを見続けている大村氏にとっても、タイソンは特別な存在だという。

大村 : 「これまで多くの世界チャンプを見てきましたが、やはりタイソンが一番強いと思います。最強ヘビー級王者論として、モハメッド・アリかタイソンかという議論が良くされますが、アリはどちらかというとボクサータイプで、フットワークで相手を翻弄するボクサーとしての動きをしたことで、確かにそれまでのヘビー級を変えました。一方のタイソンは、ヘビー級の魅力でもあるパワーを復活させました。彼の持っているパワーとスピードで、パワー時代を構築していった。アリの変革後、さらにそれを変えたのは小柄なタイソンでした。攻撃に注目されがちですが、ディフェンスも上手な選手でしたよ。カス・ダマトに教えられて実践したピーカブー方式という合間から垣間見るガードは鉄壁でした。ヘビー級としては小柄な選手で、ガードをしないとやられますからね」

ボクシングの試合で持ち前のスピードとパワーで圧倒し、ヘビー級の歴史をも変えたタイソン。ニューヨークのスラム街に育った彼は、名トレーナーのカス・ダマトに見出されてめきめきと頭角を現し、世界一のボクサーとなる。その一方、無類の女性好きとしても知られる。

大村 : 「彼はナチュラルな人間だと思いますよ。ボクサーとしての魅力はもちろんですが、そういった私生活の部分も彼の魅力だと思います。それが良い悪いはあるでしょうけど、タイソンの素のところっていうのが、魅力的なんでしょうね」

ガス・ダマトの死が転機に

一般的な論調として、ガス・ダマト死後にプロモートを任せたドン・キングとの関わりから精彩を欠いたと言われるが。

大村 : 「その前(ドン・キングとのプロモート契約)から微妙に変わってますね。圧倒的な強さに変わりはないですが、一番大きいのは、ガス・ダマトが亡くなり、心情的に変わったというところが大きいと思います。3夜連続で見ていただければ彼の変遷を見ることができますよ」

タイソンの話になると、自然に熱を帯びてくる大村氏。そんな彼にこれまで一番印象に残る試合を聞いてみた。

大村 : 「ホリフィールドとの2試合ですね。これは実際、現地から生中継しました。ダグラス戦以前はVTRでしか見ていなかったというのもあり、生の感動という部分では、ホリフィールド戦に勝るものはなかったです。生で感じたパワーやスピードは、本当に凄まじかったです」

タイソンの試合は幾度となく延期された。当時、番組に携わっていた大村氏も、何度か苦い思いをさせられ、WOWOWの局内も大慌てだったという。

大村 : 「ある期間、タイソンの試合の延期率は5割(笑)。その時期は、必ず試合変更の可能性がありますよという一文をどの告知においても入れてもらいました。タイソンとホリフィールドの試合が最初に計画された1991年からだと思います。あの時は、事前番組などを制作しましたが、全部飛んじゃいましたね(笑)。その後現地に行った時も、4日前にキャンセルされた時は慌てましたよ。本来ならば、最低でも2週間前とか1週間前とか、或いは1カ月前だったりするんですけど、1番短かったのが4日前。その時は現地にいたのでかなり慌てましたね。何をすればいいのかみたいな(笑)。その時は、たまたま二元中継を予定していましたので、二元をやめて一元にすればいいという感じで、何とか乗り切りましたけどね(笑)」

最後に、視聴者やボクシングファンへのメッセージを頂いた。

大村 : 「時代は輪廻します。60年代から70年代にかけてはモハメド・アリ、70年代から80年代にかけてはマービン・ハグラー、シュガー・レイ・レナード、ロベルト・デュラン、トーマス・ハーンズらが活躍した黄金の中量級、80年代から90年代にかけてはマイク・タイソン。タイソンに陰りが出てきたと思った時に、オスカー・デラ・ホーヤやマニー・パッキャオなどが出てきました。そういう歴史的な法則を考えると、次はヘビー級が来ていい頃だと思います。今のヘビー級は、2m以上のニコライ・ワルーエフやクリチコ兄弟が席巻してます。本来のヘビー級の姿ではありますが、カリスマ、インパクトという意味ではタイソンを越せていない。これからヘビー級が来るとしたら、第2のタイソンが今後現れるのかもしれません。それにはまず、本家本元のタイソンの全盛期をご覧になって頂き、タイソンの凄さを感じて頂ければと思います」

【第1夜】『初戴冠~不動の王者へ』3月20日(18:30~20:00)

幼少期から、1985年のプロデビュー、そして初戴冠となった1986年11月のトレバー・バービック戦、さらにその後の絶好調時代に入り、"新旧王者対決"と言われた1988年1月のラリー・ホームズ戦、同年、初来日となった3月のトニー・タッブス戦、6 月のマイケル・スピンクス戦まで、タイソンの「不動の王者」への軌跡を辿る。


【第2夜】『世紀の番狂わせ~再戴冠』3月21日(18:30~20:00)

人気・実力ともに絶頂だった1990年2月、東京ドームで行なわれたジェームス・ダグラスとの一戦で世紀の番狂わせが……。その時の真実に迫るとともに、その後1995年8月のピーター・マクニーリーとの出所後の復帰戦から、再戴冠となった1996年3月のフランク・ブルーノ戦までを追う。


【第3夜】『永遠のライバル ホリフィールド~伝説の終焉』3月22日(18:30~20:00)

ボクシング史において永遠に語り継がれるであろうライバル関係、「タイソン×ホリフィールド」。1996年11月に遂に実現した2人の初対決から、翌年6月のリマッチでの失格負けまでを辿る。そして、1999年1 月のフランソワ・ボタ戦、2002年6月のレノックス・ルイス戦、人生最後の勝利となった2003年2月のクリフォード・エティエンヌ戦、人生最後の試合となった2005年6月のケビン・マクブライド戦まで、鉄人の壮絶なボクシング人生を改めて振り返る。