ヤマハ発動機は、国内向けに「VMAX」を発売すると発表した。輸出向けVMAXとほぼ同仕様ながら、日本国内では専用の販売チャンネルを作るなど、独自の試みが行なわれている。発表会の様子を報告しよう。

ほかとは違うVMAXの位置づけ

VMAXの発表会が行なわれたのは、東京・六本木にある「国立新美術館」。二輪の発表会としては異例の場所だ。発表会が始まる前から1階フロアにVMAXのカットモデルなどが並べられ、その存在をアピールしている。

発表会冒頭、挨拶に立ったのはヤマハの山路肇 MC事業部営業統括部長。「このVMAXはラインナップの頂点に立つモデルです。加速感やパワーももちろんですが、職人による手作業のパーツなど、細部まで徹底的に作り込みました。これは日本だからこそ可能になった、世界に誇る製品だと考えています」と、VMAXがほかとはひと味もふた味も違うことをアピール。また販売については、「VMAXの販売は全国約200店の『VMAX取扱店』が窓口となり、専用のカリキュラムを受講したアドバイザーが相談やサービスにあたります。3年保証、3年間の無料ロードサービスをはじめ、VMAXオーナー向けイベントとしてクローズドコースでの走行会を開催するなど、ソフト・ハードの両面から、大人の趣味にふさわしいものとして提供していきたいと考えています」と語った。

ヤマハ発動機 山路肇 執行役員 MC事業本部 営業統括部長

ヤマハ発動機 牧野浩 MC事業本部 商品企画部 主幹

一条厚 GKダイナミックス 常務

発表会後の記念撮影

10年をかけて日本から世界へ

続いて壇上に上がったのは、MC事業本部 商品企画部の牧野浩氏。VMAXの開発意図、商品特長を語った。「先代のVMAXは1985年に発売しましたが、当時は『YH戦争』の直後で、昨今の経済状況にも似た荒廃した状態でした。そうした中で必要とされたのは、他に例のない新コンセプトでした」と先代VMAXの生まれた状況を解説。US文化をベースにしたマッチョな先代VMAXは、アメリカを超えて世界中で受け入れられることになった。

新しいVMAXの開発も決してスムーズではなかったという。「2001年の東京モーターショーに『音魂(Otodama)』として1800ccのV4エンジンを展示いたしました。しかしあまりにエンジンが大きく、車体が大きくなり過ぎました。なにより、ものすごく速いエンジンでしたが、加速感を感じないキャラクターであったために、これは違うと。陶芸家が納得できない陶器を叩き割るように、音魂プロジェクトは白紙に戻し、またゼロから開発し直しています。今回のVMAXが開発に10年以上かかった理由のひとつはこれです」。

新しいVMAXの魅力については、「低回転ではV8エンジンを思わせるパルス感とサウンド、二次曲線的に炸裂するパワーと怒濤の加速感。そして樹脂パーツを極力排した本物の仕上げにあります。日本人のアートセンスは、"配慮、気配、空間感"を織り交ぜた独特のもの。日本人であること、日本製であることを再認識したモノ造りを徹底しています」と語った。

YA1でもなく、DT1、RZ250でもなく、VMAXが継承すべき財産であるという主張

VMAXのイメージは全てを超越した「魔神」。「Machine」にもかけてある

VMAXの特長。パワーはもちろん、旗艦モデルであることやオリジナリティも重視

VMAXの開発の流れ。「音魂プロジェクト」は開発途中で中止に

人体を超越するダイナミズムの表現

最後には、VMAXのデザインについて、一条厚 GKダイナミックス常務が解説に立った。同社は『YA1』以降、ヤマハ車のほとんどを手がけているデザイン会社である。「プロダクトデザインは機能美が基本ですが、モーターサイクルは人間の感情を揺さぶるものでもある。機能美のさらに向こう、有機的な存在感まで感じさせるものでなければならないと考えている」。新しいVMAXのデザインについては、「エンジン:マキシマム、ボディ:ミニマムというコンセプトは不変です。ただ、2代目はキープコンセプトの落とし穴にはまりやすい。結局、創る、壊すという作業を何度も繰り返し、デザインスケッチはGK史上最多になった」という。

「人の心臓とエンジンは似ているところがある。鼓動も音もある。水冷エンジンではさらに動脈や静脈のイメージまで持っている。そういったイメージの視覚化もテーマのひとつです。またVMAXは日本から提案し世界化するという使命を持っています。例えば西洋彫刻を見ると人間が一番、人体美の賛歌といったものが中心ですが、日本では金剛力士像のように人間を超越する精神性、ダイナミズムがあります。これがVMAXのテーマである『魔神』でもあります」。

ヤマハとGKダイナミックスの関係。ヤマハの初期からそのデザインを担当している

2007年の東京モーターショーでは、VMAXを金属の塊で表現

VMAXを数式に当てはめてみると……。「konjo」のあたりに苦労が伺える

VMAXのイメージ画。これは発表会場のあちこちに置かれていた

加速は人間の根源的な感覚であるという説明。これもVMAXのデザインベースのひとつ

西洋の彫刻が人体美の賛歌なのに対し、日本では人間を超越した精神性が求められる

ヤマハの新しい試みが始まる

発表会後、気になる点をいくつか牧野主幹に尋ねてみた。先行して発売された海外向けのVMAXとどう違うのだろう?

「単純にパワーだけで言ったら海外向けのほうが上です。ただ、『怒濤の加速感』については日本向けも変わりません。すごいですよ。一度乗ってみてください。それと中低速のレスポンスは国内向けのほうが上ですから、日本で乗るなら国内向けのほうが絶対にいいです」。

V型4気筒以外のレイアウトも候補に上がったのだろうか?

「速いだけならインライン4もありますが、VMAXが求めるのは感性ですから、V4以外は考えませんでした」。

これだけパワーのあるマシンとなると、乗れる人も限られそうだが?

「もちろんある程度バイクに慣れた方、大人のライダーに向けて作っています。それもあって逆輸入ではなく、正規国内販売としました。逆輸入車はメーカーが全くタッチできませんが、正規国内販売ならオーナーへのサポートやサービスもちゃんとできますから。特に今回は『VMAX取扱店』制度を設けてサポートを徹底しています。単にバイク売るというだけでなく、オトナの趣味としてふさわしいものにするためには、オーナーへのサポートがとても重要になると思います」。

VMAXは個性的なバイクというだけでなく、ヤマハの販売体制、サポート体制についても、大きな試金石となりそうだ。

VMAXのカットモデル。ラジエターは上下2分割とし、容量を確保

エンジンは65°V型4気筒。1679ccから148Nmのトルクを発揮する

カムチェーンは吸気側カムに掛けられ、排気側はギヤで駆動する

吸気ファンネル長が変化する「YCC-I」のモデル。良好な排気脈動を作り出す

オールアルミ製のメインフレーム。CFアルミダイキャストと押し出し材からなる

マフラーは外観だけでなく、内部も上下が一体になっていることがわかる

シャフトドライブと、専用に開発された200/50R18サイズのタイヤ

VMAXのクレイモデル。GKダイナミックスの手によって磨かれたデザイン

プロジェクト中止になった「音魂」のエンジン。巨大である

VMAXには多くのアクセサリーが用意される。これはサンバースト塗装のトップカバー

鋳造のインテークマニホールドカバー。実際のインテークをカバーするわけではない

発表会が行なわれた国立新美術館。日本発世界化のデザインを主張するために、この場所を選んだとのこと