--当初の発表では、提携発表から13か月後に製品化という予定でしたが、出荷までは約18か月と遅れましたが。

矢野 開発期間という観点から見れば、確かにそうですが、開発の着手が昨年6月ぐらいからだったので、実質的な開発期間という意味では、予定通りといえます。実は、最初の段階で、Windowsに関する「土地勘」がなかったことが大きく響いた。Linuxはよく理解していても、WindowsやADの「作法」ともいえるものを理解するまでに3カ月ぐらいかかった。これが想定になかった期間であり、この理解が終わったあとは、かなり順調に進みました。

それと、ターボリナックスのOSで動かすシングルサインオンは、マイクロソフトとの協業によるものですが、ほかのディストリビューション環境でも動作させるという作業は、ターボリナックス独自のリスクで検証したわけで、これに2カ月ぐらいかかっています。昨年の段階では、2009年第1四半期にはなんとか出したいとしていましたが、これが4月になってしまったのはそうした理由からです。

加治佐 私は決して時間がかかったとは思っていません。ディレクトリやネットワーク、認証といった領域において、わずか18カ月で商用ベースで耐えられる完成度を持ち、かつひとつのプラットフォームだけでなく、ほかのプラットフォームにおいても検証できたことは、かなり効率が高いと思います。他のディストリビューションとの混在環境において、シングルサインオンを可能とするツールについては、今回の包括提携の枠の外の話ではありますが、相互運用性の観点では、ユーザーにとって、すばらしい環境ができると捉えています。

矢野 他社ディストリビューションが動くのは、マイクロソフトがコミットするものではありませんが、これを実現するには、やはりベースとして、マイクロソフトの知財の公開、相互運用性の取り組みの成果があります。いずれにしろ、今回のツールは、WSPP(Workgroup Server Protocol Program)評価ライセンス契約と、マイクロソフトの知財の開放がなければ実現しなかったものです。そもそものスタートが、マイクロソフトの姿勢の変化にあったといえます。

--マイクロソフトとして、支援に関して気をつかった部分はありますか?

加治佐 情報をきちっと提供していくことにつきます。そして、検証を徹底して行うということですね。東京・調布のマイクロソフト・イノベーション・センター(MIC)で、両者が直接、顔をつきあわせて検証する。MICの良さは、エンジニア同士が顔をあわせて、一緒に活動し、議論したり、問題点を見つけあっていくことにあります。ペーパーワークだけでは、やはり限界がある。

また、マイクロソフトの製品や技術は、米国本社や他の国で開発されているケースが多いため、日本法人として技術検証の場がないと、パートナーが安心感をもてない。協業を推進していく上では、不可欠な施設です。実際に、今回の協業でも、開発を担当した中国のターボリナックスの技術者の方々にも来ていただいた。多くの検証は、2、3日で済むものが多いのですが、今回は、2週間をかけて大がかりな検証を行いました。

矢野 情報提供に関していえば、マイクロソフトからの返事待ちに時間を取られたということは一度もなかったですね。情報は、タイムリーにきちっともらえた。そして、MICのファシリティを活用できた点も大きかった。今年2月に行ったMICにおける2週間の検証は、16台のサーバ環境で行いました。これだけの規模の検証を、リアルな環境できたことは、大きな協業成果です。これは感覚的なものなのですが、調布のMICは、やはり日本ならではの品質の上で検証が行われていると感じました。我々の求める品質と、調布のMICが求める品質の価値観が同じレベルで進みましたから、事前になにか調整を図るという作業がなく、極めてスムーズに検証が行えた。クオリティに対して世界で最も先進的な価値観を持った調布のMICを活用できたことは大きな意味があったといえます。