米Amazon.comが、電子ブックリーダーKindle向けの電子ブックをiPhoneまたはiPod touchで読めるようにする「Kindle for iPhone and iPod touch」をリリースした。この発表で注目すべきなのは、これまでハードウエアを軸に展開してきたKindleプラットフォームをコンテンツ主体に切り換えた点だ。

これまでAmazonは、Whispernetを通じて電子ブックリーダーのKindleから直接Kindle対応書籍を購入できるようにするなど、Kindleにおいてパソコン不要の電子書籍利用をアピールしてきた。パソコンでもKindle書籍を購入できるが、Kindleに転送できるのみでパソコンでは読めない。多くのベストセラーが9.99ドル(約990円)で販売されているKindle書籍を読むにはKindleリーダーが必要だった。

AmazonはKindleの販売台数を明かしていないが、ある程度の普及目標をクリアしたのだろう。ついにKindle書籍をKindle以外のデバイスにも解禁した。その第一弾がKindle for iPhone and iPod touchである。ユーザーは購入したKindle書籍をAmazon.comに収めておき、好きなデバイスに転送して楽しめる。今後さらに多くのデバイスでKindle書籍を読めるようになれば、Kindleプラットフォームの中心はKindleリーダーではなく、ユーザーがクラウドに構築するKindle書籍の本棚ということになる。この本棚にユーザーを取り込んでしまうのが、KindleにおけるAmazonの真の狙いである。

片手で快適に読めるiPhone/iPod touch版Kindle

Amazon.com内のKindle管理で転送状況を確認

さてKindle for iPhone and iPod touchだが、想像していた以上に快適に読書を楽しめる。利用するにはまず、iPhoneまたはiPod touchにインストールしたKindle for iPhone and iPod touchから自分のAmazonアカウントにログインする。しばらくすると、デバイスがアカウントに登録される。

Kindle書籍はパソコンで購入し、Amazon.com内のKindle管理画面で書籍ごとに転送先のデバイスを指定する。その後、iPhone/ iPod touchでKindleアプリを開くとダウンロードが始まる。

iPhone/ iPod touchでは文字サイズを5段階で調整できる。デフォルトは真ん中。英語の場合は小さめにしても問題なく読み進められる。画面上で指先を左右にスライドさせるだけでページをめくれるので、片手での読書が可能だ。読書機能は、しおり、ページ指定、メモ表示など。非常に限られているが、本を読むには十分だ。むしろシンプルで好感を持てる。

左から標準の文字サイズ、最大、最小

Whispersyncで、他のデバイスで読み進めたところまで移動

サービス上では「Whispersync」が大きなポイントである。同じ本を複数のデバイスに転送しておくと、デバイスを変えたときにどこまで読んでいたかが分からなくなる。その問題を解決するのがWhispersyncだ。ネット経由でしおりや読みかけのページの場所を複数のデバイス間で同期してくれる。

iPhone/ iPod touchに転送できるのは書籍のみで、現時点では新聞、雑誌、ブログなどの定期購読物はサポートされていない。ただこれらの情報は、ネット端末として機能するiPhone/ iPod touchでは別の方法で手に入れられる。ユーザーレビューではiPhone/ iPod touchからのKindle書籍購入を求める声を数多く目にするが、個人的にはそれほど欲しいとは思わなかった。むしろアクセスしたいのはストアよりも、Amazon.com内の自分の本棚だ。iPhone/ iPod touchを使っていつでも自分の本棚から本を取り出せる(ダウンロードできる)ようになれば理想的である。

iPhone/ iPod touchは、Kindleに比べると画面が小さく、バッテリーでの使用時間が短い。だがKindleよりも快適に動作し、カラーディスプレイでページがきれいに表示される。一長一短ではあるが、例えば短編作品またはモバイルでの読書では、個人的にはKindle 2よりもiPod touchを勧める。

KindleのiPhone/ iPod touchアプリのリリースでAmazonは自ら、Kindle 2の強力なライバルを作ってしまった。しかし同時に、対応デバイスの増加でKindle書籍の展望が広がった。今後Kindle 2の売れ行きがどのように変わるかは予測し難いが、Kindleプラットフォームに踏み出す人が増えるのは間違いない。