日本の生命保険は福袋に福袋をつけて売っている。そうすると、値段の比較ができないから

――モノを買うには、比較情報と販売チャネルが大事ということですね。

出口「そうです。通常の商品はみな、その2つを兼ね備えている。ところが生命保険だけはどちらもないんですよ。

まず比較情報がない。作れない。なぜかといえば、生命保険商品のスペックといえば約款でしょう。申し込んだら約款をあげるという滅茶苦茶なシステムをとっている保険会社も多いのです。

日本の場合は、生命保険商品が「主契約プラス特約」という特殊な形を取っています。しかも主契約自体が複合商品なんです。たとえば、終身死亡保険に定期死亡保険が付いているといったものですが、つまり主契約が福袋状態なんですよ。カメラに例えれば、ボディーだけでは売ってくれない。メーカーの決めた標準レンズが勝手に付いているのです。そのうえ、特約も福袋なんです。入院特約や手術特約など2つ2つの特約を纏めて、医療特約とか名付けて売っている。要するに日本の生命保険というのは、福袋の上に福袋を重ねたものを売っていることになります。

カメラに例えれば、特約は付属品ですが、これもばらばらに売っていないのです。福袋に入れて、その中には、望遠レンズも魚眼レンズも適当に入っている。いらない部品もまとめて買わなきゃいけない、こういう形になっていて、しかもその福袋の中に何が入っているのか、その部品ごとの値段がいくらかということを開示していないことが多いのです。

ということは、福袋と福袋を足して売っているわけですから、誰も比較できないということになるのです。そこで、私は、約款(商品の内容、スペック)と保険料表(商品の値段)は、少なくとも開示すべきだと訴えています。保険料表は、特約毎に、入院特約がいくら、手術がいくらと開示すべきです」

――つまり、どこの保険商品がよいか、客観的なデータは何もないのに、私たち消費者は商品を選ばなければいけない、ということですよね。

出口「日本の生命保険会社の販売チャネルは伝統的に1社専属で売っています。1社専属のチャネルは本能的に比較情報を嫌うわけです。世界の大多数は乗合チャネルですが。

比較されないようにしようとすれば、商品を複雑にすることが一番手っ取り早い。福袋を重ねて中身が分からないようにすればいいというわけです。それの行き着いたところが近年の保険金不払い問題です。商品が複雑になり過ぎて保険会社も分からない。これは、本末転倒でしょう。

だからライフネット生命は何をしたいかというと、保険料を半分にしただけではなくて、比較情報の自由化とチャネルの自由化をちゃんとやらなければ、お客様のためにならないと考えているわけです。

われわれは、約款も保険料表もすべてオープンにしましたが、既存の保険会社でも出そうと思えば、ボディーはいくらで、望遠レンズはいくらでと特約ごとに保険料表を出すことは可能です。よくセールスレディがお客様を訪問して、端末で保険料をはじきだしたりしていますが、その機能をホームページに載せるだけですから、約款や保険料表開示のコストはまったく掛からないわけです。ライフネット生命の場合、商品は全部単品ですから、ボディー(死亡保険)がいくら、レンズ(医療保険)がいくらというように、どんな人でも私たちのホームページを見れば、個人情報を入れなくても生年月日を入れるだけで簡単に保険料が計算できます。

同じことを全保険会社ができるはずだと私は思います。でも1社専属で営業しているところは、比較されることがもともと嫌だからしませんよね。そうすると僕らが比較情報の自由化に何が貢献できるのかと。そう考えて、付加保険料、すなわち手数料を開示したわけです。 全体の保険料から付加保険料を差し引くと、純保険料、すなわち保険の原価が計算できます。

純保険料はどこでも大体同じですから、全体の保険料から純保険料を差し引くと、各社の付加保険料がわかるというか、推測されるわけです。」

――つまり、ライフネット生命の定期保険に30歳男性が、10年、3,000万円で入ったとすると、保険料は3,484円。そのうち、純保険料が2,669円で、付加保険料は815円ということになるわけですね(図4)。もし、A社が同じ条件で、保険料が8,000円だとしたら、経費は8,000円-2,669円=5,331円ということになるわけですね。

出口「そうです。そういうことが浮き彫りにされるわけです。逆に言えば僕らは、手数料が高いから悪いと言っているんじゃないんですよ。高くてもいいんです。

【図4】保険料の仕組み

表4

ただ、加入者の皆さんがそういうことを認識して、電話1本でセールスマンが来るんだから、毎月5,000円の経費を払ってもいいと思えばそれでいいんですよね。

でもセールスマンが電話1本で来るだけで、毎月5,000円は嫌だというなら、私たちは毎月815円の経費ですから、こちらを選んでいただいてもいいわけです。お客さまの選択の問題です。ただ、生命保険は一生を通して考えれば高額な商品ですから、よく比較して納得して加入してほしいと願っています。

われわれの会社の経営方針は4つあって(1)正直に経営するということ、(2)分かりやすく、(3)安く、(4)便利にする-という、それだけしか会社の方針はありません。

しかも会社の方針は忘れてはいけないものなので、これをマニフェストという形で公開していますが、僕たちの会社は、人事評価もこのマニフェストに沿って評価するんですよ。それから少子高齢化社会ですから、僕たちの会社には定年もありません。60歳でも70歳でも健康であれば、働き続けることができます。」

――正直であれ、わかりやすくあれ、便利で安くあれ。本当にわかりやすいマニフェストですね。そして、その考えのもと、保険料の中味を開示した志も素晴しいと思います。

※次回は、開示された純保険料と付加保険料を基に、各社の保険料を徹底解剖します。


聞き手 : 酒井富士子氏

経済ジャーナリスト。回遊舎代表取締役。
上智大学卒。日経ホーム出版社入社。
「日経ウーマン」「日経マネー」副編集長歴任後、リクルート入社。「あるじゃん」[赤すぐ」(赤ちゃんのためにすぐ使う本)副編集長を経て、2003年から現職。近著に「20代からはじめる お金が貯まる100の常識」(秀和システム発行)「FPになろう」「定年手続きダンドリスケジュール」(インデックスコミュニケーション)「編集長の情報術」(生活情報センター)。二児の母。