食品の産地偽装や賞味期限の偽装、農薬混入など、「食」に関わる問題が相次ぐ昨今、輸入食品や食品関連企業に対する信頼が揺らぎ、消費者の間では食に対する不安が広がっている。同時に、CO2の増加による気候変動、人口増加といった理由から、世界的な食糧危機にも直面している。そんな中、日本食品添加物協会は17日、メディアに向けた「第9回食品添加物メディアフォーラム」を開催した。同フォーラムでは、大阪大学招聘教授の松尾雄志氏による講演「食をどう考えるのか~エスカオロジーの意味~」が行われた。
松尾氏によると、現在日本の食は3つの危機に瀕しているという。その第一が"安全性の危機"。中国産冷凍餃子への農薬混入事件の真相は現在もなお不明点が残る。食の安全に対する信頼は、国家間だけでなく、国と消費者の間でも喪失された状態にある。そして2つめの危機が"フードファディズム"だ。これは、健康食品と呼ばれるものに対して科学的事実とは無関係に食の効果を過大評価したり、食品添加物など特定の食品を過度に危険視する傾向を指す。松尾氏は「消費者の側が正しい情報を得るリテラシーが必要」と強調する。3つめはもっとも重要だとした食料危機の問題。食料自給率39%(農林水産省 平成18年度データ)の日本では、食料輸入が不可能になった場合に混乱に陥るおそれがあるという。
こうした危機に対して、松尾氏は「食」に関する既存概念を改めて体系的に見直すことが必要だと主張する。さらに同氏は、"食に対する感性"を養うことも重要だと話す。「フランス人は『毒が入っていないか』と疑うけれど、日本人は『どう身体によいか』を考える」(同)というように、日本人はあまり食品に対して疑うことをしない傾向があるという。食をどのように捉えるかの哲学は、食を考える上での基盤となると述べていた。
同氏の提唱するエスカオロジーでは「天然の食べ物にはヒトの身体によいものだけではなく、よくないものも含まれている」と考えるのが基本だという。松尾氏は、「(天然の食べ物によくないものも含まれていると)考えておけば無防備でなくなり、感情的にゼロリスクを追求することなく、賢い選択が可能になる」とし、「食」に対する意識を変えることの重要性を訴えた。